中国新聞


出生率アップ 流れ定着させる支援を


【社説】 1人の女性が生涯に子どもを平均何人産むかを示す「合計特殊出生率」が、2008年は1・37となった。過去最低の1・26だった05年から3年連続で上昇した。細々とした流れだが、定着させていきたい。国と自治体だけでなく企業や地域社会も含め、対策を拡充させることが不可欠だ。

 08年の出生数は前年より1332人多い109万1150人だった。うるう年で増えた1日分(平均3千人弱)を引けば前年を下回った可能性もある。少子化に歯止めがかかったとはいえない、とデータをまとめた厚生労働省でさえみている。

 逆に、再び減少に転じる恐れがある。昨年後半から顕著になった景気後退の影響が心配だ。今や3人に1人が派遣社員やパートなどの非正規労働者である。先への不安から結婚や出産に踏み切れないカップルも多かろう。そこへ不況が追い打ちをかけた。

 給料が下がったり職を失ったりして2、3人目をあきらめるケースも増えているようだ。ならばまず、出産や子育てに負担がかからないようにして、少子化対策の効果を挙げたい。

 フランスが参考になりそうだ。1990年代から国を挙げて対策を強化。きめ細かい30種類もの手当などを整え、今は経済的支援が欧米の主要国で最も手厚いと言われる。家族手当は2人目には月約1万6千円、3人目には3万6千円。子どもが多いほど額が増えるようになっている。教育費も、公立の学校なら無料という。

 08年の出生率は2を上回った。社会全体で子育てをサポートする意識を高め、仕組みを設けてきた成果だろう。「国の将来を見据えた投資」との位置付けが国民にも広く支持されているようだ。

 これに対して日本の国内総生産(GDP)に占める子育て関連の対策費は、フランスや英国の3%前後に対し、わずか0・75%にすぎない。

 政府は、子ども1人に年3万6千円の手当を補正予算に盛り込んだ。しかし1年限りでは効果は限られよう。民主党は月2万6千円の手当を公約しているが、5兆円近い財源をどうやって確保するか、課題もある。

 このまま少子化が続けば今世紀半ばごろ、15歳以上64歳までの「勤労世代」が半分近くに減る。消費を落ち込ませ、経済成長にもマイナスだろう。年金や医療をはじめ国の仕組みも揺らぐ。

 もはや待ったなし、である。出生率上昇を支える30代の女性は今は900万人近いが、10年後には約200万人、20年後はさらに約100万人減る。産む世代の女性が急減する前に、実効ある支援策を整えておきたい。

 できることは多い。少子化対策に薄い社会保障費の配分は、見直すべきだろう。男女とも育児休暇を取りやすい職場にする施策も欠かせない。仕事との両立支援策をはじめ、政策を総動員させて、子どもを産み育てやすい環境づくりを急がねばならない。

(2009.6.9)

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