中国新聞


子ども手当 「満額」より条件整備を


【社説】 子どもたちの成長を、社会全体として支える。鳩山政権が掲げる子育て支援の方向性である。

 経済的な面から家計の負担を軽くするのが子ども手当だ。初年度は中学生以下に1人月額1万3千円。6月の支給開始に向け、自治体の予算編成も始まった。一方で保育所の待機解消など取り組むべき課題は山積している。

 厳しい財政状況の中で、保護者らのニーズをどうくみ取り、施策のバランスを取るのか。議論を尽くしておくべきだろう。

 今、焦点となっているのは2011年度以降の子ども手当の金額である。民主党のマニフェスト(政権公約)に基づけば倍の2万6千円に増やす。全体では、防衛費を上回る5兆3千億円が必要という。お金もないのに、ばらまいて大丈夫か。そんな受け止め方もあろう。

 政権内にも負担をためらう空気があるようだ。鳩山由紀夫首相も子育て中の父母との懇談で「将来に借金を残すことはしたくない。無駄の削減で余裕ができた分だけでやる仕組みにしたい」と発言。翌日になって満額を支給すると修正した。腰がふらついているような印象を受ける。

 子育て支援は手当だけではない。政府は1月末に「子ども・子育てビジョン」を閣議決定した。今後5年間にハード、ソフト両面で取り組む数値目標を盛り込んでいる。認可保育所の定員を26万人増やす。幼稚園と保育所の機能を備える認定こども園を5倍以上に拡大する。一時預かりの利用者も10倍以上にする―などだ。

 自民党政権時代の少子化対策は、掛け声だけでなかなか前に進まなかった。それだけに目標を明確にした点は評価できよう。

 ただ、心配なのは財源である。厚生労働省は目標とする14年度には、少なくとも年に7千億円かかると試算しているが、どう調達するのかめどは立っていない。

 国債による借金が税収を大きく上回るのが、今の財政状況である。このままでは絵に描いたもちとなりかねない。子ども手当にかける巨費との兼ね合いが議論となってこよう。

 手当が有効に使われるかどうかも見えない。民間の意識調査によると、教育や育児に限定するとしたのは保護者の3人に2人。半数は、もらった年度内に使わないとしている。政府は初年度をテストケースとし、世論の反応も含めてしっかり見極めるべきだろう。

 新年度分の予算案計上に当たっては、財源難から政府部内の調整に手間取った。現行の児童手当制度を残し、自治体や企業に一部を肩代わりさせた形である。

 それだけにマニフェスト通りにすれば11年度の予算編成はもっと厳しくなろう。財政状況によっては満額にこだわらず、条件整備を先行させてもいいのではないか。

 将来的な制度設計と必要な事業をきちんと示し、そのうえで優先順位を付けるなら、国民の多くの理解は得られよう。目先の功を焦るべきではない。

(2010.2.17)


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