中国新聞


全面禁煙 「受動」防ぐ対策を急げ


【社説】 たばこの煙害に悩まされてきた人から見れば、「やっと」の感もあるだろう。飲食店やホテルなど多数の人が利用する公共的な場所を原則として全面禁煙にするよう厚生労働省が先月、全国の自治体に通知した。速やかな対応を求めるという。

 分煙を基本としてきた従来の姿勢から、一歩踏み出した点は評価できる。全面的な禁煙以外に、他人のたばこの煙を吸わされる「受動喫煙」の害を減らすことはできない―という考え方が、今や世界の流れになっているからだ。

 たばこの煙には、ニコチンやタールをはじめ多くの有害化学物質が含まれている。息切れ、せき、たんが続く慢性閉塞(へいそく)性肺疾患(COPD)や肺がん、心筋梗塞(こうそく)などを引き起こす。

 害は喫煙者本人だけでなく、一緒に暮らす家族や職場の同僚にも及ぶことが、科学的に明らかになっている。受動喫煙が原因で亡くなる人は、国内で毎年1万人に達するとの推計もあるようだ。

 もちろん厚労省もこれまで、手をこまねいていたわけではない。2003年に施行された健康増進法は、事務所や飲食店などの管理者に受動喫煙防止に「必要な措置を講ずるよう努めなければいけない」としている。しかし罰則規定がなく分煙も認めるなど、法律で厳格な対策を義務付ける欧米に比べると立ち遅れは否めなかった。

 翌年批准した世界保健機関(WHO)の「たばこ規制枠組み条約」のガイドラインも、公衆の集まる場所や屋内の職場を全面禁煙にする法的な措置を求めている。その期限が先月末だったことも、通知に踏み切った背景にあろう。

 全面禁煙の対象となるのは飲食店やホテルのほか官公庁や駅、学校、病院、デパートなどだ。屋外でも子どもが利用する公園などでは対策に配慮が必要としている。ただ、通知に強制力はないだけに実効のほどは未知数だ。

 一方、零細な飲食店を中心に「客離れ」への懸念があることもうなずける。ただ従業員の健康への影響も考えるなら、きちんとした対応をとることは避けて通れないのではないか。

 厚労省は、将来的には全面禁煙を目指すことを前提に、施設が分煙した上でポスターで明示する措置などを暫定的に認める方針を示している。「飲食店では喫煙しない」くらいの共通認識を、国民の間に広げる努力が欠かせない。

 自治体でも具体的な動きが広がっている。神奈川県は全国に先駆けて来月、公共施設や飲食店での喫煙を規制する罰則付きの条例を施行する。

 広島市では近く、禁煙か分煙か知らせる店頭シールを飲食店などに配るという。県内の大半のタクシーも来月から禁煙化される。こうした試みを、さまざまな場に広げてほしい。

 職場での受動喫煙を防ぐために労働安全衛生法の改正も、早く実現すべきだ。喫煙者の自覚を促すことを含め、地域ぐるみで機運を高めていきたい。

(2010.3.4)

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