中国新聞


ご近所通告 命のネット
虐待防止 広島のケース
親を孤立させぬ配慮大切


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 虐待で幼い命が奪われる事件が後を絶たない。痛ましい事件を防ぐため、欠かせないのが、近隣住民や知人の素早い通告だ。広島市児童相談所が対応したある親子の事例は、適切な通告の大切さを浮かび上がらせる。

 3月3日に奈良県で5歳男児が十分な食事を与えられずに餓死し、大阪府で28日に死亡した2歳男児にも暴行を受けたあとがあった。いずれも関係機関に事前の相談や通告はなく、虐待を把握できていなかった。

 「親が孤立していると間違った子育てを続けてしまう。虐待を防ぐには孤立させないことが大切。そのために素早い通告が欠かせない」。広島市児童相談所の磯辺省三前所長はそう強調し、近年対応した広島市内の親子の事例を紹介する。

  「激しい、異常な泣き声がする」。住民の通告で、相談所職員が保健師と家庭訪問に向かった。家には30歳代の母親と5カ月の長男。訪問時、長男は泣いておらず、けがもなく元気だった。緊張がほぐれると、夫の転勤で引っ越したばかりの母親は悩みを打ち明け始めた。

 「あやしても泣きやまず、つい怒ると火が付いたように泣いておろおろしてしまう」。転居先には友人がおらず、夫婦の両親も離れていて精神的に追い込まれていた。

 その後、保健師が定期的に訪問。子育てサークルを紹介し、子どものあやし方や発達の見通し、対処法などを教えるうち、母親の表情は落ち着き、子どもの異常な泣き声が聞こえることもなくなったという。

 「初期の段階で親に接触できれば大事にいたらずに済む」と磯辺前所長。一方で、体に多くの傷があるなど一刻を争う場合は、子どもを一時保護所に連れて行き、親と隔離して安全確保することもある。

 相談所は、母親が孤立し、子どもに適切な対応ができずに精神的に追い込まれる▽しつけと思って始めた体罰を放置することで徐々にエスカレートする―などで虐待が発生しやすいと指摘する。

 2004年には児童虐待防止法の改正で、通告義務が、虐待を発見した場合から、虐待を受けたと思われる児童を発見した場合に拡大された。広島市の通告件数は改正前の03年度333件から、改正後の04年度461件と約1・4倍に増加したが、その後はほぼ横ばいで08年度は330件にとどまる。ただ「表に出ない虐待もある」と相談所。児童相談所や市町村の福祉事務所への通告を求める。

 広島市の場合、通告してきたのは、近隣や知人からが最多で約4分の1を占める。ただ、トラブルを恐れて通告しなかったり、遅れたりするケースもあるとみる。このため、保健師の定期訪問時にさりげなく様子を確認するなど、通告者が発覚しないような配慮も欠かさない。磯辺前所長は「間違いでもよいので、『虐待かな』と少しでも思ったら通告してほしい」と訴えている。

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(2010.4.6)

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