中国新聞


校庭の芝生化、地域にきずな
コスト低下で中国地方でも着々


photo
豊平西小校庭の芝を刈る地域住民(6日、広島県北広島町)

 ▽住民管理、深まる交流 子どもの体力向上やエコも

 校庭を芝生化する動きが、中国地方でも活発になっている。低コストで植栽が可能になる方法が普及したことが背景にある。子どもたちの体力向上や情操教育、さらに環境対策にと、効果への期待も大きい。先進地の事例を見ると、地域との連携が鍵を握るようだ。子どもが元気になり、エコが進み、コミュニティーのきずなが強まれば一石三鳥だ。(編集委員・木村義将)

 五月晴れが広がった5月末の日曜日。広島県北広島町の豊平西、豊平南両小で運動会があった。2校とも校庭が芝生で覆われ、児童は素足になって躍動。南小は昨年に芝生化して初の運動会だった。

▽休憩時は外に

 見て心が和む青々とした空間、踏んだ時の優しい感触…。芝生化した小学校は「児童が休憩時間、ほとんど外で遊ぶようになった」と口をそろえる。

 学校統合で開校した2003年に、広島県内でいち早く校庭を全面芝生化した安芸高田市の美土里小。今春、赴任した飯田直美校長(52)は児童の活発さに目を見張った。「昨年の新体力テストでも多くの項目で全国平均を超えた」と芝生効果を実感している。

 文部科学省によると芝生の校庭は全国の公立学校で徐々に増えている。しかし、整備率(昨年5月1日現在、300平方メートル以上)は4・93%。広島県は小学校8、中学校3、高校0の計11校、1・22%にとどまる。

 芝生化が普及しないのは、整備費や維持管理費に1校当たり1千万円以上かかるためとされてきた。広島県は本年度、公立小学校で芝生化のモデル事業を実施するにあたり、数校を見込み、国の「地域活性化・きめ細かな臨時交付金」1億円を充てることにした。

▽鳥取方式選ぶ

 ところが、希望する5市町の7校から事業提案を受けたところ、経費は約半分の4800万円弱で済み、県教委の担当者を驚かせた。なんと7校のうち6校が低コストで芝生化が可能な「鳥取方式」を選択した。そのモデルになったのが北広島町の豊平地区だった。

 同地区では、06年から2保育所や3小中学校、運動公園など約3ヘクタールを芝生化。06年6月に約3千平方メートルを芝生化した豊平西小の場合「苗代など初期費用は5万円。維持管理では草抜きはせず、芝を刈るだけ。水やりも2年目以降はしなかった」と、現在は安芸太田町の筒賀小校長である山本保秀前校長(58)。

 鳥取方式は、鳥取市のNPO法人「グリーンスポーツ鳥取」が広めた方法で、50センチ間隔で穴を掘ってポット苗を植える。経費の安さや維持管理の簡単さから、同方式での芝生化は03〜09年、43都府県で計614カ所、101ヘクタールを超えた。

 鳥取県は本年度、鳥取方式の促進を本格化させる。モデル校・園を増やすほか、維持管理の技術指導体制を充実させ、秋にシンポジウムも予定している。

 松江市は、09年度から5年間で市立全31小学校の校庭を芝生化する。1校当たり約700万円をかけ、1年目に市が散水設備などを整備。2年目に学校と地域住民が協力し鳥取方式で定植、維持管理に当たり活用する。いわば官民協働型の「松江方式」である。

▽地元で会結成

 これに対し広島県北広島町の場合、行政は側面支援に回り、学校と地域が主体的に取り組む地域主導型だ。

 芝生化した豊平西小と近くの都谷保育所では、地元の総合型地域スポーツクラブ「どんぐりクラブ屋台村」や営農組合、保護者などが「豊平芝生の会」を結成。芝刈り機や肥料を自前でそろえ、芝生の維持管理を担う。

 活動をきっかけに全町組織である町緑のグラウンド維持活用推進協議会(上川勲代表)が昨年7月に発足。さらに地元の建設会社が苗を育成、販売、管理する会社を起業した。「芝生で地域が活性化し、雇用の創出にもなる。『どんぐり方式』として全国に広く紹介したい」と町教委職員の関口昌和さん(41)。

 北広島町では県の交付金で、大朝地区の新庄、大朝両小が5月末から6日にかけ、地域住民の協力で校庭に芝生を植えた。安芸太田町の筒賀小も20日に予定している。

 校庭の芝生化は、ヒートアイランド・地球温暖化対策の面からも注目されている。

 広島県神石高原町は来年4月に開校する統合三和小の校庭2700平方メートルを全面芝生にする。太陽光、地熱利用などエコ対策の一環で、県の交付金2500万円を充て、散水用の雨水貯留槽(10立方メートル)やスプリンクラーを7カ所設ける。

 広島市は県の交付金470万円で鳥取方式による芝生化を庚午小(西区)と安西小(安佐南区)で実施。市教委は校庭や周辺の気温変化とともに児童の運動量や地域との協力体制の効果を検証、他校への拡大を検討する。

 「芝生は管理に手間がかかるのが問題点とされてきたが、管理に手間がかかるからこそ人が集まり、コミュニティー活動が盛んになるきっかけにもなる」

 こう強調するのは日本芝草学会理事で日本大生物資源科学部専任講師の藤崎健一郎さん(55)。「集まった人の中からいろいろなアイデアが出て、スポーツ大会や野外映画会、野だて、キャンプなどを開催した例は多々ある」と普及に期待する。

(2010.6.20)

【関連記事】
校庭の芝生化、文科省推進9年 緑の輪、中国地方に芽 (2004.3.26)
緑の校庭整備、造園協が一役 芝生化推進プロジェクト設立 (2004.1.22)



子育てのページTOPへ