中国新聞


揺らぐ明日 点検・参院選マニフェスト <上>
教育格差 所得で拡大


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  不況や財政危機が暮らしに影を落としたまま、不安だけが広がる。参院選で各党が訴えるマニフェスト(政権公約)で明日を見通せるのか。選挙で何が問われるべきなのか。まずは「子育て」について、ファイナンシャルプランナーの高橋佳良子さん=広島市東区=に聞いた。

 ▽「子育て」 共働き世帯にケア必要

 子育てにはとてもお金がかかる。文部科学省の子どもの学習費調査報告書によると、幼稚園から高校まですべて公立だった場合の教育費は約570万円で、すべて私立だと約1678万円。別の調査では、大学の学費と生活費を合わせると、国立で自宅通学の場合は年間約104万円、私立で下宿だと約246万円になる。

 今の問題は所得格差が大きいこと。ファイナンシャルプランナーとして人生設計の相談に乗る相手には、正社員なのに年収が200万〜400万円の人も多い。子育て世帯を取り巻く現状の厳しさを感じる。

 こうした中で、高所得世帯は、大学での負担を考えて子ども手当を貯蓄に回したり、塾に通わせたりする家庭が多く、低所得世帯は普段控えている洋服代や食費などの消費に回す傾向がある。所得による教育格差が広がる恐れがある。

 現在の社会は、終身雇用制度が崩壊して給料が頭打ちとなり、退職金も減っている上、金利も低い。子どもの教育費をすべて親が負担しようとすると、老後が立ち行かなくなる。所得が低くても、一定の教育が受けられる施策が必要だ。

 また、夫の雇用が不安定な場合、共働きせざるを得ず、子育てしながら働ける環境づくりが求められている。

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 しかし、仕事を見つけなければ保育所に預けられない自治体もある。一方で、預ける保育所が決まっていないから働けないという母親の思いもある。

 私は共働きで小学5年生と1年生の娘2人を育てているが、朝になって娘が急に熱を出したとき、病児保育室が予約でいっぱいで受け入れ先を探すのに困った経験がある。

 子どものために休むのが申し訳ないと会社をやめる人もいる。産休や育休を取得しやすい環境づくりや短時間勤務の導入、パートか正社員を選択できる制度の整備などが必要だろう。

 働きながら子育てできる環境が整えば、これから就職する女性たちも希望が持てる。女性が働ければ、税金も入り、国の財政にもプラスになる。

 マニフェストではいくらでもよいことが言えるが、国の財政は厳しく、できることには限りがある。そのことは、子ども手当の満額支給断念で分かった。

 今回も各党さまざまな支援策を挙げているが具体的な財源や到達目標、優先順位がないのは残念。具体的な数値を示し、進ちょく状況も国民が分かる形で公表してほしい。国民やマスコミもしっかりチェックする必要がある。

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オープンスペースで遊ぶ親子連れ。子育て環境の一層の整備を求める声は根強い(広島市中区)

 ▽子ども手当が焦点の一つに

 子育て支援の一つの焦点となっているのが子ども手当の是非。民主党は月額2万6千円の満額支給を断念し、現行の1万3千円から上積みし、上積み分は地域の実情に応じた現物サービス給付に使えるとしている。社民党も家計に現金を充当し、子育て世帯を支援する1万3千円の手当の継続を明確にする。

 一方、自民党やたちあがれ日本、みんなの党は効果を疑問視し、全面見直しや凍結を訴える。子どもの医療費無料化や保育サービスの充実、教育支援などを提唱している。

 新党改革は子どもの人数の増加に応じて傾斜配分する制度への改正を求める。公明、共産、国民新の各党は、待機児童対策など子育て環境の整備に力点を置いた公約を示す。

 手当以外の支援策では給食費無償化、大学生への新たな奨学金制度の導入など多彩なメニューも。ただ、所要額や財源の明示がないものが多く、実現可能かどうかを見極めようとしても判断材料は乏しいのが実情だ。(余村泰樹)

(2010.7.2)


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