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小1から書道、集中力高まる 「筆の里」熊野町
授業導入 正しい学習姿勢も習得


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佐城さん(右端)の指導で、穂先の向きを変えて線の太さの違いを確かめる児童(熊野第一小)

 筆の生産量全国一を誇る広島県熊野町の町立小学校が本年度から、1、2年生に書道の授業を導入している。学習指導要領では、国語で毛筆を学ぶのは小学3年生から。筆産地として義務教育の初期段階から書に親しませるとともに、児童の集中力の向上や正しい学習姿勢の習得を目指す。(小山顕)

 熊野第一小の書写室。「背筋を伸ばして。ひじを上げて」。書道科担当の非常勤講師、佐城恵子さん(34)が、2年2組の児童28人に姿勢を正すよう促した。佐城さんは、広島市東区で書道教室を主宰。町立全4小学校で1、2年生の書道科の授業を1人で受け持つ。担任の教諭はサポートに回る。

 ▽まず水書板から

 書道科は5月に始まった。1学期の間、児童は水書板を使った。墨の代わりに水を含ませた筆を灰色の板の上で走らせる。乾くと、何度でも書き直しができる。

 まず、穂先を上、横、斜めと向きを変えると、太さの違う線が書けることを学ぶ。佐城さんの「トン、スー、ピタ」の掛け声に合わせて、縦と横の線を書く練習を繰り返した。1学期の終盤には「三」や「川」などの字に挑戦した。

 渡辺航彗(こうせい)君(7)は「字がきれいに書けるようになってきた」と満足そうだ。2学期からは墨と半紙を使っている。習う字も増やし、さまざまな筆の運び方を学ぶ予定だ。

 授業で、字の上達以上に力を入れるのが書道の作法。両足の裏を床にきちんとつけていすに座り、机とおなかの間は常に拳一つ分の間隔を保つ姿勢を意識させる。「心を落ち着けて、静かにして書きましょう」。佐城さんは呼び掛ける。

 1学期の序盤は書き損じて声を上げる児童がいたが、徐々に私語はなくなった。大地来夏(こなつ)さん(8)は「書道の授業が始まってから、私もクラス全体も集中力が高まった気がする」と話す。

 1学期を終え、同小の奥金実校長は「ほかの授業でも書道科を引き合いに出せば、子どもは姿勢をすぐに正すようになってきた」と、少しずつ手応えを感じている。

 ▽広島県内 初めて

 町教委によると、小学校低学年への書道科導入は広島県内で初めて。教科書はなく、成績評価もしない。授業は45分間で、年間15回を予定する。

 ただ、書道科は通常の教育課程とは別に授業時間を増やして実施している。町教委は3年間を試行期間と位置付け、児童に負担がないかを見極めた上で継続や見直しを判断する。

 全国では、静岡県伊東市が「書道教育特区」として、2006年度から小学1、2年に書道科を設けたのが先駆け。教育課程の中に位置付けて週1回程度、授業をしている。

 ▽郷土への誇りも

 熊野町の伝統産業を生かした取り組みに、安田女子大の谷口邦彦准教授(50)=書写書道教育学=は「学習の基本は字を書くこと。熊野町が率先して取り組めば、県内の書写教育がもっと盛んになる」と期待を寄せる。先が柔らかい毛筆を使うことで、筆圧の加減や字を書くリズムが硬筆よりも覚えやすいという。

 書道の基礎を正しく学ぶためには、専門家の力は不可欠。だが、講師に任せきりではいけないと、町教委は8月下旬、1、2年生の担任教諭たちを集めて初の実技研修会を開いた。林保教育長は「筆といえば熊野と言われるほどの文化がある。子どもたちに、郷土に対する誇りを持たせられる取り組みにしたい」と話している。

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