中国新聞


里親サポート拡充を 孤立防止、地域に役割
継続的な研修や相談体制


   

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里子の部屋を片づける安東さん。「里親には互いのサポートが大切」と語る(津山市の自宅)

 先月、3歳の里子を虐待し死亡させた疑いで東京の声優の女性が逮捕された事件。中国地方の里親たちも大きな関心を寄せている。里子を育てる場合、養育者をわざと困らせる「試し行動」が起きることが多く、里親が誰にも相談できずに孤立することがあるという。里子を育てる家庭をきめ細かく支援する取り組みが今必要だ。

 日本の児童養護は戦後、戦災孤児を施設で預かる方式が広がり、里親中心の欧米とは対照的に、施設での集団生活が主流になっている。広島県内では親の病気や児童虐待などで実の親と暮らせない子どもが約800人。うち里親に養育されているのは61人にすぎない(4月現在)。

 国や同県は子どもを家庭的な環境で養護しようと里親を増やす考え。2000〜09年、全国の里親数は7千人台で推移しており、大きく伸びない理由は里親制度への誤解や理解不足があるという。

 児童虐待や養育放棄による死亡例が後を絶たない中、実の親がいても一緒に暮らせない子どもは多い。広島市内では8月現在で乳児から高校生まで30人が里親に育てられているが、実親と死別したのはわずか2人である。

 ■不安から試し行動

 比治山大短期大学部の森修也教授(児童臨床心理学)は「施設に入った子どもは『またどこかにやられるのでは』と不安を持つ」と指摘。里親への「試し行動」は、その人に安心して心を開いていいのかどうか、試すために起きるという。

 津山市の里親安東秀子さん(63)は以前、高校生の女子を預かった際、試し行動と「赤ちゃん返り」を経験した。小さな子どものように絶えず付いて回って話しかける。忙しくて突き放したような返事をするとリストカットしようとする…。

 自宅では地区の里親と集まってよく里親サロンを開催。東京の事件を話題にした時、皆で「その気持ちが分かる」と語り合った。安東さんは「里親は孤立してはいけない。お互いのサポートが大切」と受け止めている。  児童相談所の職員は定期的に里親を訪問。指導や相談に当たっているが、里親の側では職員が異動でたびたび代わることに対する不満が根強い。

 広島県里親会の牧田繁喜会長(67)=庄原市=は「担当者が2、3年で代わり、新しい人に相談して前任者のことだからよく分からない、と言われたらどうなるか。そこで止まってしまう」と嘆く。

 ■サロンで毎月交流

 それだけに相互協力の組織として地域の里親会が重要だ。広島市里親会はほぼ毎月、里親サロンを開き、プール遊びやクリスマス会などを通じて交流。「里子は皆きょうだい」という考えだ。半面、里親と里子の関係を知られたくないという理由で、会に参加しない人も多いという。  森教授は「子どもを自分だけで引き受けるという考えだと、うまくいかなくなった時のリスクも全部掛かってくる」と指摘。里親は社会的養護の重要な担い手であり、里親同士のネットワークの中で子どもを養育することが大切だと提言する。  子どもの発達段階に応じた継続的な研修や、相談体制の充実などが里親には必要だろう。里親の「先輩」から「後輩」へさまざまな蓄積が自然に伝わるような場を、もっと地域に増やすことが求められている。(編集委員・串信考)


−クリック− 里親制度

1948年の児童福祉法施行に伴って本格的に導入された。現在、養育里親、児童虐待などによる影響で養育が難しい子どもを対象にする専門里親、親族里親、養子縁組を希望する里親の4種類あり、それぞれ一定の条件が決められている。里親には里親手当や子どもの生活費、教育費が支払われるが、将来の自立に備えて積み立てる里親も多い。


(2011.9.11)





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