中国新聞


法科大学院10年目、曲がり角 中国地方4校
低合格率 定員割れも


   

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 司法制度改革の柱だった法科大学院が10年目のいま、岐路に立っている。中国地方の4法科大学院はここ2年、司法試験合格率が全国平均に満たず、定員割れも続く。文部科学省が合格率などを指標に低迷校への補助金削減を進める中、いずれも明確な浮揚策を描けないでいる。

 司法試験合格発表を受け、9月中旬にあった広島弁護士会法科大学院運営支援委員会。「もう少し合格率にこだわってほしい」。弁護士の河合直人委員長は、広島大と修道大の法務研究科長を前に切り出した。

 本年度の合格率は、広島大が19%、修道大11%。全国平均26・8%を下回った。河合委員長は「今の流れでは将来、共倒れもありうる」と危ぶむ。岡山大も24%で平均に届かず。島根大(山陰法科大学院)は17%で前年比11ポイント改善したが、既に2015年の募集停止が決まり、静岡大と広域連合法科大学院設立を目指している。

 文科省の圧力は増している。来年度の補助金削減は島根大など全国18校で、本年度より14校増えた。合格率や入試倍率に加え、定員充足率も指標に加えたためだ。73校の乱立が合格率の平均を25%前後に低迷させる一因のため「文科省は30校程度に統廃合したいのでは」とみる関係者もいる。

 ▽教育密度は濃く

 合格率で見劣りする地方の法科大学院の存在意義は、どこにあるのか。明確なのは地元定着率だ。広島大、修道大の新司法試験合格者の約8割は中国地方で弁護士になっている。島根県内では、2004年に比べ弁護士が2・7倍に増えた。

 定員割れも手伝い、教育の密度は濃い。修道大は今春入学者9人に対し、専任教員は15人。弁護士の戸田慶吾教授は「少人数だから各学生の足りない点を見抜ける」と話す。

 一方で、法科大学院志願者数が全国でピーク時の2割に激減し、優秀な学生は地方に集まりにくい。修道大の上谷均研究科長は「母集団が増えないと、個別にできることには限界もある」とこぼす。

 龍谷大法科大学院で今春まで教えた広島大の田村和之名誉教授は「もはや首都圏のブランド大学の定員を減らし、優秀な学生を地方に分散させるしかない」と訴える。

 法科大学院のもう一つの悩みは、司法試験科目ではない幅広い教養や実務面の教育と、高い合格率の両立を求められる点だ。

 広島大には、学生が市民と対面して相続や離婚などの相談に乗る授業がある。3年小笠原理央さん(26)は「相談者に質問しないと情報を引き出せないと痛感した。将来役に立ちそう」と評価する。

 ただ、こうした実務演習は合格率に直結しない。さらに、法科大学院では、受験テクニックの指導を文科省に禁じられている。

 かたや、11年からの「予備試験」制度を利用すれば、法科大学院に通わずに塾で試験対策に専念できる。本年度、予備試験通過者の司法試験合格者は倍増し、合格率も71・9%に達した。岡山大の上田信太郎研究科長は「予備試験は経済的な理由のある人に限る厳格な運用をしないと、法科大学院制度が崩れてしまう」と戸惑う。  ▽「地域の総力戦」

 法科大学院を補完しようと、それぞれの地元ではOBたちが受験指導に力を入れ始めた。広島弁護士会は昨年から、夏休みなどに広島大、修道大の学生に法的文書の書き方を助言。島根大でも地域の弁護士が課外指導し「今回合格した4人はこの指導をうまく活用できていた」(朝田良作研究科長)という。

 広島弁護士会に所属する河合委員長は「法科大学院がなくなって困るのは地方。これからは地域の総力戦になる」と力を込める。(馬場洋太、松島岳人)

(2013.10.22)


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