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2003/06/29
相撲道21年 元関脇安芸乃島 藤島親方に聞く

日本人くさい力士 けいこ通し育てる

 幕内在位記録は史上三位。しぶとい取り口で長年土俵を沸かせてきた「横綱キラー」が五月場所を最後に引退。藤島親方を襲名し、後進の指導をスタートさせた。広島県安芸津町出身の元関脇安芸乃島(36)=本名山中勝巳さん、二子山部屋。相撲道二十一年にかけた思いと、陰りが見える相撲人気復活への期待について聞いた。

(東京支社・時永彰治)

 ▽人気復活へ・・・ファンの心を打たねば

 ―若貴フィーバーのころと比べ、相撲人気はもうひとつですね。

 あのころは時代もバブル経済でよかった。今は経済が苦しいから娯楽の費用を削っている。人気自体がなくなったとは思わない。われわれもファンが見たいと思う相撲をとっていかないといけない。心を打つような相撲取りが出てくれば、盛り返していける。

 ―どう育てますか。

 けいこをするしかない。自分が入門した時は、今の三倍はやっていた。音をあげず、息を切らさず、平然とした顔をしてね。若乃花、貴乃花ともけんか腰だった。「闘志なきものは去れ」が親方の指導方針。人間には限界があるが、自分の場合はそれ以上のものを親方が引き出してくれた。自分も一生懸命、恥ずかしくない相撲を土俵で取りたい一心でけいこした。そうすることでファンに喜んでもらえるし、応援してもらえる。

 ―今の力士はけがや故障が多いのでは。

 自分も大関目前でけがに泣いた。ぶつかり合うわけだから壊れない方がおかしい。けがをしても修業が足りないと考え、鍛え直した。根気よくけがに付き合っていくしかない。もう駄目だと思ったら終わり。駄目と思うか、バネにして頑張っていくか。力士としてのプロ意識が大事になってくる。

 ―今の力士をどうみていますか。

 自分の周りの人は若い子は根性がない、とよく言う。でも、みんながみんな根性がなくなったわけじゃあない。あるやつはある。一方で体は絶対的に大きくなっている。でかいことは素質だから、うまく育てていけば強くなる。日本人くさい、たたき上げの力士を育てていきたい。

 ―第二の安芸乃島の誕生が待たれますね。

 自分を目標にしてもらっては困る。もっと強くないとね。相撲で勝負したいという若い子が広島にいれば、ぜひ面倒をみたい。

 ▽しぶとさの原点・・・おやじの喝に感謝

 ―入門時は誕生日前で十四歳でした。不安はなかったのですか。

若い力士に胸を貸す藤島親方(左)=東京都中野区の二子山部屋

 「逃げて帰ったら腹を切らすぞ」とおやじに言われ、命がけで入門した。それ以上に恐れるものはなかったし、逃げ出そうとは思わなかった。

 ―お父さんは相当怖い人だったようですね。

 おやじは漁師で、小学生のころは毎日のように殴られたし、土間に五、六時間も座らされた。地元であった十両昇進パーティーでも師匠の前に正座させられてぶち殴られた。「こいつを殺してもかまわんから鍛えてくれ」と。だから、つらいと思う基準が普通の人とは違う。しぶとい性格になったし、ある意味で感謝している。

 ―そのせいで小学時代から柔道、相撲とも強かったのですね。

 売り物にならない小魚ばかり食わされ、骨も強くなった。漁を手伝い、網を引いて力もついた。小学三年から始めた柔道は、やりすぎて身長が一七四センチで止まったが、逆に体が小さいからこそこれまで頑張れたと思う。

 ―土俵以外で話題になる力士もいます。その点まじめな二十一年でしたね。

 この業界は酒と女性で駄目になる場合が多い。たばこはおやじに「やるな」と言われて吸わなかった。大酒のみのおやじに似ず、酒は体質的に一滴も飲めない。女性は、おまえの顔だったら大丈夫だろう、と周りに言われた。それでも水泳の五輪強化選手だった嫁さんと知り合い、意気投合して結婚した。子どもも二人できた。大事にしています。

 ―広島県出身の関取は北桜、豊桜の兄弟十両(広島市安佐北区出身)だけになりましたね。

 自分が小さい体で早く昇進したから、広島の人は簡単と思っているだろうが、あそこまでいくのも百人に一人ぐらいで大変なんですよ。二人はよく頑張っている。

 ―親方としてこれからの仕事は。

 七月の名古屋場所から新人親方の仕事が始まる。館内の通路整理がまずは自分の役目だ。部屋では毎日、若い力士にけいこをつけている。まだ闘える体だし、辞めたという実感がどうもない。来年一月三十一日の断髪式でまげを切ってただのおっさんになった時に、寂しいと思うでしょうね。


 柔軟な思考持ち模索

 二子山部屋で幕下力士を相手にした藤島親方のけいこをのぞいた。ハアハアと息を切らし、背中から足まで砂だらけの若い力士。胸を貸す親方の胸がみるみるうちに赤くなった。

 親方の若手時代は、けいこに今の三倍から五倍も時間をかけたという。ただ何がなんでも自分の体験を踏襲させるのではなく、今の若者に合ったけいこを模索しているようにみえた。「体がでかいことは素質。うまく育てていけば強くなる」という言葉に、新しく柔軟な思考をうかがわせている。

 低迷する相撲界。親方が描くのは「心を打つような相撲取り」。外国人力士の台頭を意識してか、「日本人くさい、たたきあげの力士」ともいう。新人親方が、どんなタイプの力士を生み出すのか楽しみだ。

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「相撲で勝負したいという若い子が広島にいれば、ぜひ面倒をみたい」
≪プロフィル≫1967年3月16日生まれ。小中学生時代、柔道と相撲で活躍。引退したばかりの元大関貴ノ花の藤島親方(現二子山親方)にスカウトされて82年入門。その年の春場所で初土俵を踏んだ。87年名古屋場所で十両。部屋最初の関取になった。88年春場所に入幕し、最高位は関脇だった。幕内在位91場所は史上3位、通算822勝は同6位。金星16個は史上最多。三賞19回(殊勲賞7回、敢闘賞8回、技能賞4回)も史上1位。幕内優勝は果たせなかった。 

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