中国新聞社

(15)手術前の検査先生汗だく、私くたくた

2001/8/12

 困ったことに医師、看護婦など医療従事者が病気になると、知識がある分だけ、安心もすれば、反対に不安も大きくなる。

 抗がん剤の治療を四クール終え、残っている右の卵巣と、子宮を切除する手術の日が近づいていた。手術前にはいろいろな検査がある。

 主治医は「大丈夫。大腸は検査せんでも」と言っていたが、「念には念を入れて、検査してください」と申し出た。転移していたら、大腸を切ることになり、手術の方法だって違う。外科の先生も必要だ。少しでも情報があったほうがいいと思ったのだ。

 検査に先立って、大腸を洗浄する液を大量に飲まなくてはならない。無機質な味といい、なんとも気持ち悪い液体を二リットルも。「これが生ビールだったら」と思いながら、やっと飲み終わり、トイレに何回も入って、本番に臨んだ。

 検査室で、しり割れパンツにはき替える。「なんてカッコ悪い。だれにも見せたくないなあ」。でも、命が大事と思い直す。

 「大丈夫ですよ。内視鏡を入れる時、ちょっと痛いですが、あとは楽です。十五分くらいですみますからね。はーい、気を楽にして」。若い医師が腕まくりして、モニター画面を見ながら、張り切っている。

 「うーん。いたい」。指示どおり、狭い検査ベットの上で、体の位置をぐるりぐるりと変える。とうに十五分はすぎたように思った。汗をかいている先生に「もう、終わり?」とたずねると、「いえ、まだ入り口で、中に入っていないんです」との返事に、気が抜けた。

 タッチ交代で、ベテランらしい先生が「本当に痛い時だけに声を出してください」といって、検査がまた始まった。この先生も汗だくになって、やっと奥に入り、大腸の画面を冷静にみることができた。

 「あれ、ここ気になるから、ちょっと生検をしておくか」と言う。「えっ、どこ?」と私もドキドキして画面をみる。検査が終わって、例のパンツは汗と検査液でべとべと、私もくたくたになった。

 翌日から、生検のことが気になって仕方がなかった。「いつ結果がでるかな」「もし、転移していたら」…。あれこれ思いがよぎった。

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