中国新聞社

(22)し び れ根気よく年単位で治療

2001/9/30

 何かに夢中の時は、手足のしびれなどは忘れていることがある。しかし、このしびれがずっと続くとなると、少し憂うつだ。看護婦さんに聞いてみる。

 「ねえ、抗がん剤治療やめたら、しびれ取れるかね。時間どのくらいかかるん?」

 「個人差あるけど…。何年もかかる人もいるみたい」

 「何年もって、何カ月じゃないの?」

 入院中は、上げ膳(ぜん)据え膳のお姫様生活なので、生活に支障をきたすといった状況にぶつかるわけではない。しかし、退院して生活をしていかなくてはならない時、このしびれは困る。「仕事ができるだろうか」。訪問看護の風景を思い出しながら、あれこれ想像をめぐらしてみる。

 「自動車のハンドルをうまく握って、ブレーキがサッと踏めるかな。階段の上り下りはどうかしら。訪問かばんは結構重いし、血圧を計ったり、脈拍を取ったり、いろいろあるしなあ」。フーと、ため息が出る。

 早くしびれを取る手だてはないものか、主治医に聞くと、「高圧酸素室に入る?」と勧められた。ものはためしに、やってみることにした。

 濃度の高い酸素を少しずつ、圧力をかけながら体内に取り込むことで、手足の末端まで酸素が行き渡り、循環が良くなって、しびれが軽くなるというわけだ。まず、気圧に対応できるか、耳鼻科で鼓膜などをチェックしたうえで高圧酸素療法が始まる。

 金属製の部屋は五、六人が入れる広さ。宇宙船みたいで、なんとなくわくわくする。静電気などが起きては発火するので、綿製の服装で入る。気圧が上がるにつれ、耳がキーンとして痛くなる。鼻をつまんでフンと鼓膜を整える。

 初めての私に、係りの男性が「耳は痛くありませんか? いいですか。はじめますよ」と、窓の向こうから確認を求めている。私は指でOKサインを出した。

 加湿のための蒸気が部屋に流れ始めた。さながら「2001年宇宙の旅」の世界。酸素マスクを着けて、静かに横たわると、本当に銀河系のどこかに飛び立っていきそうだ。

 閉所恐怖症の人は無理だが、顔面神経痛や糖尿病などでしびれに悩む人たちが、効果を期待してこの療法を受けている。「もう、半年やってるんよ」と声を掛けられて、「なんでも年単位なんだな」と納得した。

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