中国新聞社

(27)お任せはいや意見言えば納得がいく

2001/11/4

 結局、外科に紹介されて、リンパ嚢腫(のうしゅ)の大きい方に、管を入れることになった。

 呼ばれて処置室に行くと、以前、一度診察を受けたベテラン医師と若い医師が二人、待ち構えていた。「なんで二人いるんだろう。そんなに大変なことなのかな」と思いながら、ベッドに横たわる。超音波検査で位置を確かめながら、おなかに針を刺して、管につなぐ方法で、中にたまっている液を出してしまうのだ。

 六センチもある長い針が目の前でピカリと光る。光った方を見ると、針を持っているのは若い医師だった。「えっ、ベテランの先生の方がいい。何回も刺されるのはいやだ」。でも、口に出しては言えない。

 そばにいるベテラン医師に目をやると、静かな声で若い医師に指導しながら、手を添え、刺す方向などを説明している。若い医師は、心なしか緊張しているようだ。

 主治医がやってきて、ベテラン医師を見やりながら、「先生は腕がいいんよ。任せておいて大丈夫」と、大きな声で言った。「先生、だれが針を持っているか、よく見てよ」と言いたかったが、医師の態度が冷静だったのでこらえた。目をつぶって、その時を待った。痛みが走ったかと思うと、すぐ終わった。管と袋をつけて、ベッドから下りる。

 私は「腕がいい」ということは、正確で間違えない、丁寧な技術と豊富な知識を持っていることと思っていた。しかし、それだけでなく、技をうまく伝授し、自信を与える教育的能力も、その中に含まれているんだと感じた。

 それにしても、「ベテラン先生にやっていただきたい」と要望を告げていたら? 「分かりました。そうしましょう」となるのか、「この手技は二人でないと難しい。私が責任を持つから、この若い医師にさせていただきたい」か、それとも「何を言うんですか。こちらに任せてください」と相手にされないか…。

 いろいろ思いが浮かぶが、何回も刺して、うまくいかなかったら、怒りや不信を募らせたに違いない。やはり、先生に「お任せ」ではなく、はっきりと意見を言えばよかった。そうすれば、うまくいかなくても、納得がいくし、怒りや不信も和らぐはずだから。

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