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社説・コラム

『記者縦横』 届けたい ヒロシマの声

■編集委員 田中美千子

 呉市の映画館を久々に訪ねた。上映されたのはチャップリンの「独裁者」。クラシック映画は食わず嫌いをしてきたが、主催した呉映画サークル事務局長の福田優さん(40)に「必見だから」と背を押されたのだ。

 確かに正解だった。制作は、第2次世界大戦中の1940年。ナチス・ドイツのヒトラーを痛烈に風刺している。特にラストの演説シーンは圧巻だった。

 「時の権力者を真っ向から批判し、愛と平和と民主主義を訴える作品。ウクライナ危機が続く今こそ、見てほしくて」と福田さん。とりわけ次代を担う若者にと、大学や高校にも猛プッシュ。当日は京都のチャップリン研究家を招き、作品解説のトークも開いた。

 来場者は277人。コロナ禍の影響もあり、目標には届かなかったという。それでも開いて良かったと、福田さんは言う。「映画の力を借りて、考える場を提供したかった。『やっぱり戦争は嫌だ』『平和を守らないと』という感情を共有できたのは大きいと思う」

 ロシアは核兵器を振りかざし、侵略を続ける。戦闘は長期化し、無力感がこみ上げる。だがこんな時こそ私たちが考えることを諦めず、発信し続けねばならないのだろう。被爆地の新聞社もじっとしてはいられない。キャンペーン報道「ヒロシマの声」では、被爆者やその思いを受け継ぐ人々の切なる声を紙面に加え、ウェブサイトの英語訳、ロシア語訳、字幕付き動画で伝えていく。何とか、世界に届いてほしいと願って。

(2022年11月18日朝刊掲載)

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