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連載・特集

ヒロシマの声 NO NUKES NO WAR] 復興の精神 対話へ力に 被爆2世の会社役員 松田哲也さん(53)=広島市中区

  ≪自動車販売の広島マツダ(広島市中区)の会長。創業者の祖父と当時の全従業員7人は被爆死し、父は入市被爆した。原爆ドーム(中区)隣のビルを購入、改装し、2016年におりづるタワーを開業。原爆の日のオンライン「とうろう流し」や広島大仏の「帰郷」に携わり、広島の文化の継承にも力を注ぐ。≫

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 おりづるタワーの建物の購入前に初めて屋上から景色を見て、原爆が投下された当時に思いをはせられると感じた。爆心地の島病院(現島内科医院)や投下目標となった相生橋…。原爆ドームと、いまの街並みの対比にも感慨を覚えた。世界中の人に来てほしい。廃虚になり、復興した広島の街をここから見てほしい。

 私たちの会社は原爆で創業社長や社員を亡くし、建物も失った。生き残った親類たちがゼロから立て直し、広島経済の復興とともに育った。広島へ恩返ししたい「DNA」がある。

 ただ、おりづるタワーには「原爆ドームを見下ろすのか」という声が届いた。私は戦争を知らず、声高に「平和とは」と言う立場ではない。悩んでいると、社員が「おりづるの壁」のアイデアをくれた。来場者が折った鶴をガラス張りのスペースに入れる―。国や宗教、イデオロギーを問わず参加でき、平和への思いが重なっていく。広島がいろんな人の思いを受け止めてきたのと相似形だ。もうすぐ80万羽に届く。

 原爆には文化や伝統も断ち切られた。広島の思いを脈々と伝えるため、被爆75年の20年に、新型コロナウイルス禍で中止になった「とうろう流し」の一般参加に代わるオンライン版を企画した。今年は復興期に原爆ドームそばに安置された後、奈良県に移った広島大仏の里帰りも実現した。

 来年5月、広島市で先進7カ国首脳会議(G7サミット)がある。ロシアの人も訪れる機会になるよう願う。力や制裁で対峙(たいじ)するだけでなく「そうは言っても」と対話をする。それが惨禍と復興を経験した広島、日本の役割じゃないですか。(聞き手は桑田勇樹)

(2022年12月29日朝刊掲載)

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