×

ニュース

[被爆80年 リレーエッセー] キーウ市州行政局内部監査部長 オクサナ・コルティク 平和復興 広島から学びたい

 ウクライナの首都キーウで3年以上、ロシアのミサイルやドローンの攻撃にさらされながら暮らしている。戦争とは過去のもので第2次世界大戦以降、二度と起こることはないだろうと思っていた。

 だが、わが国は今も「ウクライナ危機」という戦争状態にある。2022年2月のロシア侵攻から3年余り。戦争体験がない人が戦争の惨禍を理解することができないことを痛感している。

 一方で戦争下でも未来へ向け、生きることを学べると知った。国際協力機構(JICA)のプログラムで広島市を訪れ、見事に戦後復興を果たしたまちの様子や市民生活に触れる機会を得たことがそれだ。原爆の惨禍から立ち上がった広島と原爆資料館(中区)の訪問は忘れえぬ経験となった。

 広島への思いが強いのは、私がチョルノービリ原発事故(1986年4月)の翌月に生まれたことが大きく影響しているのかもしれない。事故以来、原子力事故が人間の健康に与える直接、間接的な影響を多くの人が知り、彼らの苦しむ様を目の当たりにしてきた。

 人々はその悲劇を忘れておらず、まさか再びその恐怖にさらされるとは思いもしなかった。ロシア軍が占領し、戦闘に巻き込まれると原子力事故につながるかもしれないウクライナの最も重要なインフラの一つ、ザポリージャ原発、さらに核攻撃に踏み切る可能性を示唆したロシアの動向だ。

 なぜ世界は変わらないのか。なぜ広島やチョルノービリのような悲劇が再度繰り返されようとするのか。平和は安定した生活や社会の構築、持続可能な経済発展にとって不可欠だ。平和以上に価値のあるものなど世界にはない。

 その意味で広島の戦後の歩みは持続可能な都市の発展や平和を築く上でこれ以上ない手本であろう。各国が手を合わせれば外交的手段で難局を打破し、ウクライナに再び平和が戻ると信じる。その時こそ、平和を礎に復興を遂げた広島の歩みから多くを学びたい。

 最後に、平和とは単に対立がないことを意味するのではない。平和的な手段で対立を回避し、武力紛争につながらないように導く能力である。私はそう考えている。

(2025年5月8日朝刊セレクト掲載)

年別アーカイブ