被爆電車

勇気与え 今も現役

ゴトゴトゴト―。ビルの谷間を古めかしい路面電車が走る。近未来的なデザインの後続にもおかまいなし。原爆投下の目標とされた相生橋(広島市中区)を、モーターをうならせて渡っていく。

651号は1942年に造られた。3年後の夏、市役所近くで被爆した。広島電鉄の被爆電車で、今も働く「現役」は651号と652号の計2両しかない。
被爆から3日後には、路面電車は己斐電停(現西広島電停)から天満町電停近くまで運行を再開した。「先輩方が復旧作業に励んだと聞いた。動きだした電車の姿に大勢の市民が勇気を得たはずだ」。ベテラン運転士の宮田多美男さん(61)=南区=は胸を張る。

緑とクリームのツートンカラーの車体は、のんびりと、それでいて力強いリズムを奏で続ける。復興にかけた市民のエネルギーを象徴しているようだ。

(2010月7月30日夕刊掲載)