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ヒロシマ・ナガサキ ZERO PROJECT

ルポ「ヒロシマ」 初稿現存 ハーシー自筆 随所に推敲の跡 米の出身大図書館が所蔵

 米国内外で反響を呼んだ米国人記者ジョン・ハーシー(1914~93年)の被爆地ルポ「ヒロシマ」(46年)の自筆の初稿が、米コネティカット州ニューヘブンのエール大図書館にあることが分かった。ハーシーが47年1月、出身校である同大へ寄せていた。随所に推敲(すいこう)した跡が残り、作品に込めた思いの深さがうかがえる。(田中美千子)

 A4判の薄紙127枚に鉛筆書きの、きちょうめんな文字が並ぶ。「A NOISELESS FLASH」(音なき閃光(せんこう))「THE FIRE」(火災)など4部構成。広島流川教会の谷本清牧師たち被爆者6人の取材を踏まえ、その体験を忠実に描いている。

 文字の上から線を引いて一部を削ったり、新たな文章を挿入したり。全編にわたり、表現を熟考した跡がうかがえる。1ページ目の冒頭には「SOME EXPERIENCES AT HIROSHIMA」(広島の体験)など、複数の題名候補も。「HIROSHIMA」以外は、上から線で消してある。

 ハーシーは46年5月下旬から広島を取材し、「ヒロシマ」をまとめた。全文を載せた同年8月31日付の米誌ニューヨーカーは1日で30万部を売り上げたともいわれる。図書館はニューヨーカー掲載時のゲラ刷りも所蔵。ハーシーが呉市に入るのを許可した46年5月24日付の米軍発行の証明書や、谷本牧師がハーシーに宛てて、自らの被爆体験を英文で伝えた書簡もある。

 初稿を含むこれらの資料は、ニューヨークに住むハーシーの孫でアーティストのキャノンさん(38)と、映像作家の西前拓さん(53)が、ハーシーの足跡をたどるドキュメンタリー作品の取材で見つけたという。

 キャノンさんは「被爆者の体験を正しく伝えようと祖父が苦心したのがよく分かる」。西前さんは、米国議会図書館が初稿を寄せてくれるようハーシーに打診した際の書簡も確認しており「それだけ貴重な歴史資料だ」と指摘している。

(2015年8月2日朝刊掲載)