生き埋めの90歳を救う/呉の吉田医

'99/7/18 朝刊

 先月二十九日の集中豪雨で深刻な被害を受けた呉市内で、土砂崩 れに飲まれて全壊した民家に生き埋めになった九十歳のお年寄りの 命を救った医師がいた。危険の伴う夜中の災害現場で、約四時間に 渡って懸命の救命作業を続けたとして、同市医師会は、この医師の 表彰を検討している。

 呉市広多賀谷一丁目、中国労災病院の救急部に勤務する吉田哲医 長(42)。吉田さんは二十九日午後五時過ぎごろ、所用のため労災病 院から広島市内にタクシーで向かっていた。しかし呉市街地を通っ た時、折りからの大雨の影響で道路が水浸しになった状況を見て、 「大変な事態になっている」と市消防局に立ち寄って協力を申し出 たという。

 消防無線が各地の被害状況を刻々と伝える中、「呉市上畑町のが け崩れ現場で生き埋めになったお年寄りの女性の救出作業が難航し ている」と救急隊の派遣を要請する連絡が入り、吉田さんは三人の 救急隊員と一緒に救急車に乗りこんで現場へ向かった。

 現場は、がけ下の木造平屋が土砂に押し流されて全壊。お年寄り は意識ははっきりしていたものの、つぶれた民家の中で胸から下が 土砂で埋まり、うつ伏せの状態で助けを求めていた。救急隊員が泥 を手でかき出して救出作業をする中、吉田さんはお年寄りの衰弱を 防ぐために濡れた体を毛布で包み、酸素を吸入。懐中電灯の明かり を頼りに、泥まみれの腕から血管を探して点滴を打つなど懸命の救 命措置を施した。

 お年寄りが助け出されたのは吉田さんが現場に駆けつけてから約 四時間後。足を骨折していたが、吉田さんの適切な措置が実り、命 には別条がなかった。救出までに使った点滴は一〇〇〇CC以上だっ たという。

 吉田さんは「無事救出できたのは、救急隊員の方々が身の危険を 顧みず必死の作業をしてくれたおかげ。お年寄りから『もう一時間 遅かったら体が持たなかった』と言われ、助かってくれて本当に良 かったと思う」と話していた。

【写真説明】土砂崩れ災害で生き埋めになったお年寄りの救命措置を施して助けた吉田医師


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