街角の被爆建物を訪ねる―2000年夏(1)

'00/7/24

 ■キリンビアホール外壁/雑踏よそにひっそり

 梅雨明けの青空から夏の日差しが降り注ぐ、広島市の繁華街。中 区本通りの東端にある広島パルコ周辺は、制服姿の学生や買い物客 でにぎわっていた。外壁はパステルカラーのタイル張り、ショーウ インドーには水着姿のマネキンが並ぶ。この華やかなビルの西壁 に、「被爆の証人」がひっそりとはめ込まれている。

 爆心地から東へ六百七十メートルの同地点にあった「キリンビヤ ホール」の外壁の一部。御影石に囲まれた肌色のタイルは異彩を放 つ。所々が黒ずみ、欠けている。下の銘板を読めばようやくそれと 分かる。鏡のような銘板に映し出される、行き交う人の流れは止ま らない。

 ビアホールは一九三八(昭和十三)年に開業した。鉄筋三階建 て、大きな続き窓のある近代的な建物だった。原爆で窓は吹き飛 び、火災になったが、倒壊は免れた。戦後に営業を再開し、市民の 憩いの場となった。七〇年代に入ると、一帯の再開発がスタート。 建物取り壊しに対して保存を求める声が強まり、九四年四月、外壁 の一部保存が実現した。

 撮影の合間に、中区舟入南町でフランス菓子店を営む市原ジョス リーヌさん(46)がのぞき込んできた。「こんな所にも被爆の跡があ るんですね。知らなかった」と、目を丸くした。



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