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未来のために

テニアン写真展に向けて打ち合わせを重ねる松島さん(左から2人目)や梶矢さん(右端)ら被爆者たち

 海に向かって延びる滑走路。そこに立つ。涙と汗で顔じゅうがびしょぬれになった。六十年前のあの日がよみがえった。ここから飛び立ったのか―。「ひろしまを語り継ぐ教師の会」事務局長、梶矢文昭さん(67)は昨年八月、初めてテニアンの地を踏んだ。

 テニアン市や議会などが催した「もう一つの」平和記念式典に出席するためだった。被爆六十年の昨年、式典実行委は初めて被爆者を招いた。広島からは梶矢さんと同会会長の松島圭次郎さん(77)が参列した。

 式典は島の平和記念公園であった。時差は一時間。八月六日午前九時十五分が近づくと、どこからか島民が集まった。やがて人垣ができた。消防車が一斉にサイレンを鳴らす。「黙とう」―。静寂に包まれた。

 「ほんとに大勢の人が集まって胸が熱くなりましたよ」と梶矢さんは振り返った。「島じゅうの人が平和を求めとることがよう分かりました」

「友達だよ」。強いメッセージがこもるテニアン高校からの手紙。学校の文化祭で披露する大畦教諭(左から2人目)と生徒たち(撮影・山本誉)
 ▽批判押し切る

 米自治領の島。「原爆投下が終戦を早めた、多くの命を救った」。そんな考え方は島にも浸透している。だからこそテニアンの式典実行委は被爆者を招いた。被爆体験の証言も求めた。子どもたちに、被爆者の目線でも戦争を見つめさせたいと。「税金の無駄遣いだ」。米の退役軍人やメディアの批判を浴びた。でも押し切った。

 「島そのものが戦争の残骸(ざんがい)です」。テニアン高校教諭佳子・マングローニャさん(51)は言った。自身も実行委のメンバー。島の洞窟(どうくつ)を掘れば、今も白骨が出てくる。玉砕の島。原爆が飛び立った島。この地が背負ったもの―。「それは平和の結び目になることなのよ」

 梶矢さんはつぶやいた。「ほとんど知らなんだ。原爆が飛び立った島ということぐらいしか」。広島の大勢の人に伝えなければと思った。この島も戦争の犠牲者だということを。

 今月二十五日から六日間、同会はテニアンの写真展を開く。戦前の日本人町、玉砕戦、そして現在。三十点ほどの写真で紹介する。みんなで相談し、タイトルを考えた。「もう一つの小さな平和祈念展」という。


 テニアンとヒロシマ。「原爆」という言葉でつながる、二つの地。子どもたちは未来に向かって友情を深め合う。その様子を、うれしい気持ちで見守る人がいる。広陵高校(広島市安佐南区)の大畦(おおうね)正雄教諭(60)。戦前、スズラン通りで商店を営んでいた大畦正喜さん(84)=庄原市総領町=の長男だ。

エノラ・ゲイが飛び立った滑走路。実際に足を踏み入れると、「足が震えた」と被爆者たちは言った(「ひろしまを語り継ぐ教師の会」提供)
 ▽姉の死地を知る

 あれは二十代も半ばだったか、自分に姉がいたことを初めて知った。父がぽつりと話してくれた。「生まれて間もなくテニアンで死んでしもうた」と。父の悲しげな横顔を思い出す。どんなふうに暮らしていたのか、どんな戦だったのか―。幾度も聞こうとしたが、「聞けなかった。父の心の傷にふれる気がして」

 昨年一月、広陵高校がテニアン中・高校と姉妹縁組を結んだ。大畦教諭は国際理解教育部長。いわば両校の接着剤のような立場だ。「不思議な気がする。すべて偶然だった」。自分とテニアン―。強い縁を感じる。

 昨年八月、テニアンであった平和記念式典に生徒とともに出席した。「行ってくるよ」。出発前、父に言った。「店の跡を見てきてくれ」と父。「スズラン通りという商店街があるから」

 探したが分からなかった。スズラン通りの場所すらも。道行く人に聞いたが誰も知らなかった。でも、確かに両親はこの島で暮らしていた。戦場となり、姉は死んでしまった―。そう思うと胸が詰まった。

 ▽一緒に鶴を折る

 両校の生徒は、すぐに仲良くなった。一緒に鶴を折ったり、プレートに平和メッセージを書いたり…。手をつなぎ、肩を組んで「仲間」になった。「戦争をなくすために自分たちに何ができるのか―。子どもたちが考えるきっかけになったと思います」。大畦教諭は繰り返した。

 今春、テニアン高校から広陵高校に八十通もの手紙が届いた。いくつかは美しい日本語でつづられていた。大きな字で、こう書いてあった。「わたしは、あなたのともだちです」。秋にはテニアンへの修学旅行が待っている。友への返事を携えていく。
 悲劇でつながった、二つの地。だがこれからは違う。ともに平和を紡いでいく。過去を見据えて。未来に向かって。(木ノ元陽子)

悲しみの島 テニアン 玉砕と原爆と

2006ヒロシマ


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