核保有大国へ廃絶どう要請(6)
'98/6/7
▽日米会談で論議深める
インド、パキスタン両国の核兵器の実戦配備はたやすいとみるべきだ。研究開発の蓄積があるからだ。両国への最終的な要求は核の放棄、非核国としての核拡散防止条約(NPT)への無条件加盟だが、一触即発の危機を回避するため、当面、兵器化、実戦配備を進めないよう働きかけたい。
外務省軍備管理・科学審議官
阿部 信泰氏あべ・のぶやす 67年外務省入り。外相秘書官、米ハーバート大国際問題研究所フェロー、経済局審議官、駐ボストン総領事、国連公使などを経て97年8月から現職。52歳。 印パ主張は言い訳
印パ間の火種であるカシミール問題は、核実験によって単なる領土・地域問題でなく、世界の平和と安全を脅かす存在になった。カシミールをめぐる東京会議の構想も政府として持っている。ただインドが「二国間問題」と第三国の仲裁に抵抗しているだけに、領土問題以外に議論の範囲を広げ、緊張緩和を目指す方法もある。
核保有国が核軍縮を進めないからNPTには入らない、というインドの主張は逆転した論理だ。それを言えば世界中の国が核を持つことを許してしまう。核実験を正当化する言い訳だ。現実に米国、ロシアは戦術核を引き揚げるなど核軍縮を急速に進めている。印パ核実験はその潮流に水をさした。核開発に踏み出す国を誘発しかねない。それを防ぐためにもNPTの堅持は必要だ。
さらに、包括的核実験禁止条約(CTBT)に署名しない理由として、米国などの臨界前核実験を上げる印パの理屈も、言い訳という気がする。CTBTは禁止対象を核爆発実験に限った。それであれば核保有国の合意が取り付けられる状況だった。臨界前も含めてすべての核実験は、やらないに越したことはない。ただ、臨界前の禁止を主張し過ぎると、CTBT自体の発効が危うくなる。
「ヒロシマ」に期待
政府として、もちろん米国をはじめ核保有五カ国への核軍縮努力の要請は、一層強めたい。七月の日米首脳会談でも論議の対象になるだろう。日米安保体制下、米国の核抑止に依存している現状は確かにある。しかし、冷戦が終わった今、ぎりぎりの水準まで核を減らす努力を現実的対応として求めたい。ロシアに対しても第二次戦略兵器削減条約(START2)の早期批准を要求している。
四日の国連安保理常任理事国による緊急外相会議では、核保有国五カ国の枠組みの堅持は確認されたが、五カ国自身の一層の核軍縮という面で、少し弱いかなという気もする。十二日からロンドンで開く主要国(G8)外相会議は核保有国、非核国半分ずつの構成になる。日本として実のある議論を目指したい。
広島、長崎市がインドで開いた原爆展などを通じ、民衆の中で少しずつ、核兵器の恐ろしさへの理解が広がると思う。政府としてもできるだけ協力したい。今夏にも初会合を開く「核軍縮・不拡散に関する緊急行動会議」では、広島平和研究所を軸にしたヒロシマの貢献に大いに期待したい。
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