インドが地下核実験強行≪解説≫

'98/5/11

 ▽バジパイ首相、公約通り核実験

 「政権に就けば核実験を実施し、核保有国宣言をする」―ヒンズ ー至上主義を掲げるインド人民党(BJP)の党首で、今年三月、 首相に就任したバジパイ氏が確信を持って言った言葉が、鮮やかに 耳元によみがえる。

 一九九六年の秋から冬にかけ、インドと隣国のパキスタンの核状 況などの取材のため、両国を約四カ月間訪れた。その時、ニューデ リーの政府公邸で当時最大野党を率いていたバジパイ氏に単独イン タビューした。彼はこうも言った。「核保有五カ国はいつまでたっ ても核廃絶に向けての努力をしない。核保有国として同じ土俵に立 たないと、彼らは真剣に核軍縮に取り組まない」と。

 BJPは選挙公約通り、「潜在核保有国」の敷居を越えて核実験 をついに実施、それを公表することで「核クラブ」入りをした。科 学技術的に見れば、二十四年前に既に核実験を実施しており、驚く べきことは何もない。一九七四年のポカランでの核実験を指揮した 核物理学者のラジャ・ラマナ博士は、インドの核技術の高さを私に 誇らしげに語ったものである。

 しかし、そのラマナ博士もその後に起きた米国やカナダなど西洋 先進国が取った経済制裁が「インドに取って大きな痛手だった」と 認めた。インドがこれまで核実験を自制してきたのは、発展途上に あるインドがこうした経済制裁を再び受けることによる経済・社会 発展への弊害をもたらさないことへの配慮だったとも言える。

 では、なぜ今、一歩を踏み越えてしまったのか。

 そこには、核保有五カ国が核拡散防止条約(NPT)や包括的核 実験禁止条約(CTBT)を一方的にインドに押しつけながら、自 らは核廃絶の道を歩むどころか、臨界前核実験を実施して新たな核 開発技術を得ようとするなど核大国の横暴に対するいらだちがある。

 さらにジャムー・カシミールの領土の帰属問題をめぐり厳しく対 立する隣国パキスタンへの示威の意味も込められているだろう。

 だが、核実験実施がもたらす南アジアへの悪影響は計り知れな い。パキスタンのカイゼ・アザム大学院大学の物理学者で印パ両国 の核保有に反対の運動を続けるアブドラ・ナイヤー教授(53)は「と ても悲しい出来事だ。軍事的に劣るパキスタンとして対抗手段を取 ることになってしまうだろう」と、国際電話の向こうで声を沈ませ た。(田城明 編集委員)

参考:印パ独立50年「核神話の下で」へ


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