明確にされぬ廃絶時期

教訓的なカナダ報告書



 一九九五年に出された米ヘンリー・スチムソンセンターの報告書 をはじめ、その後の一連の報告書や決議案は、東西冷戦時代に肥大 化した核抑止力体制を根本から見直し、核軍縮から核廃絶への道を 具体的に提示しようとの試みである。

 九一年に米ロ間で調印したSTART1、九三年のSTART2 合意、さらには九六年に出された国際司法裁判所の「核兵器による 威嚇や使用は、一般的に武力紛争に適用される国際法、特に人道法 に違反する」との勧告的意見が追い風となった。

 紹介したスチムソンセンター、キャンベラ委員会、米科学アカデ ミーの報告書には、多くの共通点がある。例えば、核抑止力の役割 を一定に評価しながらも、それが持つ計り知れない危険やコストの 大きさを具体的に指摘。当面の核兵器の役割を、自国や同盟国を他 国の核攻撃から防衛するために限定し、生物・化学兵器や通常兵 器、テロリスト集団への抑止機能として使用することを否定してい る。

 いずれの報告も段階的に核弾頭数を減らすことを提案。まず、米 ロの核弾頭数を二千個、さらには千個へと削減し、その後英仏中の 三国を巻き込み、核廃絶あるいは禁止の実現を提唱している。その ためのステップとして、兵器用核分裂性物質の製造禁止や管理の徹 底、強力な査察体制の確立、核兵器の警戒態勢の解除―などを求め ている。さらに非核地帯拡大の有用性についても評価している。

 しかし、廃絶の時期については、どの報告書も明確にしておら ず、達成の可能性についても明言していない。

 昨年五月のインド、パキスタンの地下核実験の実施、八月の朝鮮 民主主義人民共和国(北朝鮮)によるテポドン発射実験、今年に入 ってのNATO軍のユーゴスラビアへの空爆による米ロ、米中間の 関係悪化など、最近の世界の政治情勢は核軍縮の推進にとって厳し い状況となっている。従来の軍縮提案もなお、核保有国の具体的な 政策課題にまで上がっていないのが実情である。東京フォーラムの 報告書では、こうした状況下で世界の指導者や世論にどこまで説得 力のあるアピールができるかが問われることになるだろう。

 一方、昨年秋の新アジェンダ連合による国連総会決議案や、十二 月のカナダ議会の報告書は、新しい動きとして注目される。「唯一 の被爆国」を標ぼうする日本政府や日本人の役割を考える上で、極 めて教訓的である。