非核の世紀―米国の被曝者賠償
 核保有国に補償の責務

'00/4/14
社説

 米政府が核兵器製造に従事する被曝(ばく)労働者に国家賠償す る計画を明らかにした。長年放置してきた被曝者の補償責任を認め たのは、一歩前進だ。広島・長崎への原爆投下以後、核兵器の製造 や実験などで、被曝者は世界に増え続けている。これらヒバクシャ の救援は、核兵器廃絶と並んで非核の世紀を目指す人類の課題であ り、核保有国の責務だ。

 米国では約半世紀にわたり、主要な十六施設と数十の関連施設で 約七万個の核兵器が製造され、六十万人以上が従事してきたとい う。がんなどを発病した被曝労働者は裁判で政府と争ってきたが、 歴代政権は因果関係が立証されないなどとして賠償を拒んできた。

 賠償計画では、対象になる労働者は三千人以上。がんの発病に最 高十万ドル(約一千万円)が支払われるなど、当初三年間だけで三 億六千万ドル(約三百八十億円)の支出が予定されている。「過去 の過ちを正す」として、危険な労働条件を放置してきた責任を初め て認めたのは画期的な姿勢転換だ。

 核実験に動員された被曝退役軍人二十五万人には既に一九八八年 に救済法が制定され、補償が行われている。さらに軍人関係以外で もウラン鉱山被曝労働者の補償法が九〇年に成立した。こうした流 れの中で、核関連施設労働者の間で多発する疾病と被曝、あるいは 有毒な化学物質の影響との因果関係を否定し切れず置き去りにする 根拠がなくなったことが、賠償計画につながったようだ。個々の被 曝線量の記録が不十分でも「政府の責任で最大限救済する」姿勢は 評価したい。これまで、被曝を認めないために、こうした記録を意 図的に破棄していたようなケースを救う狙いもある。

 全米で何人の核被害者がいるのか、公的な資料は明らかにされて いない。全米放射線被曝者協会の推計約九十万人から見れば、核実 験場の労働者や周辺住民など、まだ多くの人が国の援護の枠外に置 かれている。これら被曝者は個々に裁判で争っているのが現状だ。

 米国以外の被曝者の実態も定かでない。旧ソ連ではセミパラチン スク核実験場があるカザフスタン共和国だけで約百二十万人と言わ れる。国の援護はほとんどなく、民間の救援活動が始まったばかり だ。中国新聞社の調査では、その他の核保有国の英国には一万七千 人、フランスに三百三十六人、中国に千二百六人、核実験国インド に五万二千八百人が判明しているが公的援護はほとんどない(本社 刊「世界のヒバクシャ」)。

 米英仏の核実験場になった太平洋諸島にも被曝者は多いが、一部 にわずかな補償がされたにすぎない。地球規模で放射能被害の全容 をつかみ救済策を講じることが、今世紀に残された宿題だ。核保有 国にその第一義的な義務があるのは言うまでもない。

 日本被団協は、留保してきた米国への補償請求を新千年紀の運動 の柱に据えた。広島・長崎の被爆者には日本政府が対策を講じてい るが、海外の被爆者には及ばない。「全被爆者の補償を核使用の国 際法違反のあかしとして、核兵器を放棄させる」闘いだ。核時代の 陰に置かれてきたヒバクシャに光を当てるさまざまな営みは、核開 発がいかに高くつくかを認識させ核廃絶へ向かう力になるだろう。


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