2000年7月12日

4禁止運動

連帯 世界に広がる 政府・自治体も動き

パソコンを使い、スタッフと一緒に「劣化ウラン弾反対キャンペーン」の次号を準備するレイ・ストリートさん(左)(マンチェスター市)

 放射能兵器の劣化ウラン弾が世界の国々に拡散する一方で、ウラン弾の製造・使用禁止を求める国際的な市民運動が高まりを見せている。

 「核軍縮」とも連携

 禁止運動は一九八〇年代の後半、人体や環境への影響を恐れる米国の劣化ウラン弾製造工場や試射場周辺の住民らから始まった。それはやがて、湾岸戦争で深刻な疾病に苦しむ米・英両国の退役軍人や家族らの訴えともつながっていく。

 さらにインターネットや集会などを通じて、環境問題や反核運動に取り組む欧米の非政府組織(NGO)、科学者、法律家らへと運動の輪は広がった。

 英国マンチェスター市にある「劣化ウラン弾反対キャンペーン(CADU)」は、一九九九年一月に生まれた。代表を務めるレイ・ストリートさん(62)は、核兵器禁止運動で長年の歴史を誇る「核軍縮キャンペーン(CND)」の全英副議長も兼務する。

 「CNDでは、東西冷戦終結後の核軍縮をどう進めるか。特に第一撃攻撃を認める北大西洋条約機構(NATO)軍の核政策の変更を迫る運動などに取り組んでいるわ。でも、劣化ウラン弾のことはほとんど問題にならなかった」

 転機が訪れたのは九八年十月。マンチェスターであった「劣化ウラン弾とイラク」についての集会へ、彼女自身が出かけ、その時初めて尿から劣化ウランが検出され、関節痛などで歩くのも困難になった自国の退役軍人の証言を聞いた。イラク南部で兵士や市民、特に子どもたちにがんや先天性障害・死産児が増えている実態についても知った。

 秋に国際会議開く

 「放射能兵器であることが何よりショックだった。核廃絶運動も大切だけど、この問題も看過できない」。ストリートさんは、一緒に活動する仲間と相談。全英組織のCNDの了解も取り、マンチェスター支部だけは、CNDの事務所を使いながら、劣化ウラン弾に焦点を絞ったCADUの別組織を立ち上げた。

 年四回発行の機関紙(八ページ)やホームページでは、国内の退役軍人や国の対応、米国やカナダ、イラク、ユーゴスラビアなど劣化ウランに関連する世界の動きを掲載している。

 「十一月には二日間の日程で、『劣化ウラン弾に反対する国際会議』をこの町で開くの。各国の退役軍人、製造現場や試射場の住民、イラクやユーゴスラビア(セルビア)の関係者、物理学者や医師、議員らが集まり、さまざまな角度から討議を加え、劣化ウラン弾禁止の機運を高めたい」

 ストリートさんらメンバーは、最低でも三百人は集めたいと準備に余念がない。会議の主催者には、二十年前に英国で最初の「非核自治体宣言」をしたマンチェスター市も名を連ねる。

 カリブ海に浮かぶ米信託統治領プエルトリコのビエケス島には、米海軍の射爆場がある。劣化ウラン弾を含め、第二次大戦中からの実弾演習で島が汚染され、九千三百人の島民の多くが健康障害を抱える。島では一年余り前から、劣化ウラン弾の使用に反対するだけでなく、演習禁止を求めて激しい抗議行動が続く。

 東京では昨年、イラクへの救援活動を続ける少数の市民が「劣化ウラン研究会」をつくり、兵器の実態普及に努めている。

 市議会が禁止決議

 劣化ウラン弾の実態が知られるにつれ、自治体や政府レベルでも動きが出てきた。米国カリフォルニア州デービス市議会では今年三月、劣化ウラン弾使用禁止を決議し、クリントン大統領に決議文を送付。インターネットを通じて「他の自治体も続くように」とアピールする。

 フィンランドの環境大臣は五月、欧州連合内の各国の環境相あてに「劣化ウラン弾の使用禁止」を呼びかける手紙を送った。ドイツ与党を形成する緑の党の議員の間でも、政府が劣化ウラン弾の国際的禁止を求めるように要請を始めた。

 ストリートさんは「この一年間で、欧米を中心に随分と関心が高まってきた。今後はそれぞれの国で、もっと議員らに実態を伝えて政治を動かしていくことが大切」と訴える。

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