欧米で劣化ウラン弾の禁止機運高まる

'01/1/12

 放射能兵器である「劣化ウラン弾」の使用禁止を求める機運が欧 州をはじめ、米国でも高まっている。対戦車用に、米・英軍がこの 兵器を初めて実戦で使用した湾岸戦争開始から十七日で丸十年。ユ ーゴスラビア・コソボ自治州などからの帰還兵にがんなどが多発す る「バルカン症候群」を契機に高まった今回の動きは、湾岸戦争か ら十年を経てウラン弾への危険認知が、欧州市民に広がった証(あ かし)である。

(田城 明)

 記者は一九九九年秋から昨年二月末まで、米・英両国、イラク、 ユーゴスラビアのセルビア・コソボ両地域を訪ね、がんなどの健康 障害を抱えて苦しむ退役兵や、戦場となったイラク南部の市民らを 取材した。

 ■本社英文ページ、アクセス5万件

 「知られざるヒバクシャ 劣化ウラン弾の実態」と題して四月か ら連載した記事(六部四十七回、特集七回)は全文英訳され、本社 のホームページに掲載。十一、十二の二カ月間の英語版へのアクセ ス数は、四万九千百三十四件に達し、関心の高さをうかがわせる。

 ▽伊ではテレビ特番

 電子メールで感想を寄せた米ニューヨーク市在住のイタリアテレ ビ局プロデューサーで、「劣化ウラン弾の特番をつくりたい」(七 日付)というファービオ・パツーチさん(42)は、今回の「震源地」 となったイタリア国民の思いをこう代弁した。

 「戦争ではなく、平和維持軍としてコソボなどに出かけ帰還した 若い兵士六人が、既に白血病で犠牲になった。劣化ウラン弾のこと をほとんど知らなかった国民の多くは、情報を隠そうとする北大西 洋条約機構(NATO)に対し、裏切られた思いを抱いている」

 帰還兵の間にがんなどの犠牲者を出しているフランス、ベルギ ー、ポルトガル、スペインなど欧州各国も、米・英両国が「安全」 と主張してきた説明に納得せず、独自に調査団をコソボに派遣した り、帰還兵全体の健康調査に乗り出した。

 ▽チェルノ経験影響

 英国サンダーランド大学名誉教授(医化学)で、全英湾岸退役軍 人・家族協会(NGV&FA)の科学アドバイザーを務めるマルコ ム・フーパーさん(66)は、「イラクでは湾岸戦争後、子どもや退役 軍人らの間で白血病などのがん患者が三、四倍に増え、先天性障害 を持つ子どもも増えている。世界は『敵国』として、その現実に目 をつむってきた。しかし今、同じ欧州の中庭で起きている現実を、 チェルノブイリ原発事故の恐怖を経験した欧州の人々は看過できな くなった」と強調する。

 激しい疲労感に襲われるなど自らも疾病に苦しむNGV&FA会 長のショーン・ラスリングさん(42)。「戦争終結後、協会がつかんでいるだけで も既に五百二十一人の退役兵が死んでいる。戦闘で死んだ兵士の十 倍を超える」と言うラスリングさんは「今こそ対人地雷兵器のよう に、劣化ウラン弾の製造、使用禁止を実現する時」と訴える。

 製造・使用禁止を求める動きは、湾岸戦争開戦に合わせて十五日 〜二十一日を「行動週間」と位置づける米国の民間団体「軍事毒性 プロジェクト」(本部メーン州)の呼びかけにこたえ、首都ワシン トンやニューヨークなど全米各地で計画されている。

 ▽否定の背景に補償

 コソボなどバルカンでの劣化ウラン弾使用に伴う放射線被曝(ひ ばく)と帰還兵らの人体への影響については、なお科学的に調査す る必要があるだろう。

 しかし四十五億年と地球の歴史に匹敵する半減期を有し、鉛や水 銀などと同じ強い毒性を併せ持つ劣化ウランが、兵器として使用さ れた時の影響は、米国防総省などの内部文書でも明らかだ。

 使用国の米・英両政府がかたくなに影響を否定する背景には、放 射性廃棄物である劣化ウランの「有効利用」ができなくなるだけで なく、それを認めた場合の自軍兵士への補償や汚染地域の除染など に膨大な費用がかかるからである。


劣化ウラン弾top pageへ戻る