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核なき世界への鍵

核なき世界への鍵 オスロからの報告 <上> 人道主義国ノルウェー

禁止条約 抵抗と模索

 核兵器禁止条約は廃絶への「光」と受け止められているのか。制定に貢献した非政府組織(NGO)「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN(アイキャン))へのノーベル平和賞授賞式があったノルウェー・オスロで、政府や市民社会の反応を見た。(水川恭輔)

 「『核の傘』に守られていると信じる国々に問います。破壊の共犯者となるのですか」。10日、オスロ市庁舎。フィン事務局長の受賞演説に、客席のICANメンバーや禁止条約推進国の大使たち多くが拍手で応じた。その中で、ノルウェーのソルベルグ首相は最前列で、両手を脚の上に重ねたままに見えた。

 翌11日、受賞者と首相の共同記者会見。ノルウェーの記者がこの件を問うと、ソルベルグ氏は「多くは拍手したが、同意できない2カ所はしなかった。正直な振る舞いだ」と「抵抗」を認めた。「どう廃絶を達成するか、考え方が違う。禁止条約に署名しない」とも断言。米国の核に依存する北大西洋条約機構(NATO)の加盟国としての安全保障政策と相いれないと主張した。

 ただ、フィン氏は批判よりも期待の言葉を発した。「ノルウェーは伝統的に核軍縮の主導的役割を果たし、人道主義の強い力がある。パートナー団体と市民は政府が条約に加盟するよう働き掛け続けるだろう。私たちは諦めない」

 ノルウェーは、ICANが条約加盟を重点的に働き掛けたい「核の傘」の国の一つ。条約制定へ機運を高めた3度の「核兵器の非人道性に関する国際会議」の初回は同国政府が2013年にオスロで開いた。かつては、クラスター弾禁止条約(10年発効)の制定を「オスロ・プロセス」と呼ばれる交渉で引っ張った。

 しかし、核兵器禁止条約の交渉には不参加だった。オスロであった初回の国際会議後、労働党中心から保守党中心の現政権に交代した影響との見方がある。ストルテンベルグ前首相も今、NATO事務総長として条約に反発。ロシアと境界問題を抱えた経緯などから、NATO重視の政治傾向は強い。ただ、ノルウェーのノーベル賞委員会のレイスアンデルセン委員長は労働党系の法律家という。

 「加盟には、国会への働き掛けが重要だ」。ICAN加盟の地元団体「核兵器にノー」のスティン・ロドミル会長は9日、被爆者との交流会で強調した。同団体は核兵器を禁じる必要性や国連での条約交渉、被爆者の思いを伝える冊子を定期的に発行。議員たちに配り意見交換を続ける。

 条約を巡る国会の動きも活発だ。地元紙などによると、条約の前向きな検討を求める野党が主導し、政府が署名する意味合いと影響を研究する議案が年明けにも可決される見通し。与党勢力の一部も賛成するという。11日に国会議長らと面会したICANの川崎哲(あきら)国際運営委員も説明を受けたといい「日本でも同じ調査をすべきだ。どうすれば条約に入れるか議論を詰められる」と期待した。

 「被爆者の証言は、なぜ核兵器のない世界のために行動しなければならないか示してくれる」。ソルベルグ首相は会見で、広島市南区出身の被爆者サーロー節子さん(85)の受賞演説の意義は強調した。式に出席した日本被団協の田中熙巳(てるみ)代表委員(85)は12日、現地での会見で13年のオスロでの非人道性の国際会議に出席したことを感慨深げに振り返り、力を込めた。「そう遠くない将来、条約を批准してくれると期待している」

核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)
 オーストラリアで2007年に正式に発足し、101カ国のNGO468団体が加盟する国際的な組織。非保有国主導の3度の「核兵器の非人道性に関する国際会議」(13~14年)などでNGOの代表格として核兵器の法的禁止を呼び掛け、今年7月の核兵器禁止条約制定へ機運を高めた。本部はスイス・ジュネーブ。

(2017年12月17日朝刊掲載)

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