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再調査 割れる見解 被服支廠巡り広島県議会4会派 

「3棟保存」に転換 期待・警戒・懐疑的
「3棟保存」に転換 期待・警戒・懐疑的

 広島市にある最大級の被爆建物「旧陸軍被服支廠(ししょう)」(南区)で、3棟を所有する広島県が表明した耐震性の再調査に対し、県議会(定数64)の主要4会派の見解が分かれている。結果次第で耐震化費用が安くなる可能性があるため、安全対策を現在の「2棟解体、1棟の外観保存」から「3棟保存」に転換するのではないかという期待と警戒の両面がある。2017年度の前回調査の結果を覆すような県の姿勢に懐疑的な声も強い。(樋口浩二)

 県は、17年度の耐震診断で倒壊の恐れを指摘されたのを受け、1棟当たりの保存・活用に33億円、うち耐震化に28億円かかると試算。県財政への影響などを考慮し、19年12月に安全対策の原案「2棟解体、1棟の外観保存」を公表した。

 ところが、本体のれんが壁の強度が想定より高い可能性が浮上。「耐震化費用を3分の1程度に圧縮できる可能性がある」として、20年度一般会計補正予算案に再調査費3千万円を盛り込み、開会中の県議会定例会に諮っている。24日に始まった県議会一般質問で、主要4会派では1人ずつがこの問題を取り上げた。

 先頭を切ったのは、湯崎英彦知事の県政運営を支える最大会派、自民議連(33人)の吉井清介氏(尾道市)だった。「耐震化コストを抑えられるというだけで『2棟解体、1棟の外観保存』を転換するべきではない」とけん制した。

 自民議連の幹部は「原案の支持に変わりはない」と言い切る。再調査は認めるが、県財政への影響などを踏まえて「残す1棟がより安く耐震化できるというだけの話だ」と受け止める。

 対照的に「耐震化費用を大幅に圧縮できるなら、全棟保存も可能」と訴えたのが、公明党議員団(6人)の栗原俊二氏(安佐南区)だ。費用が3分の1になれば、3棟を約30億円で残せる。「被爆建物を可能な限り後世に残す」という党の考えを踏まえて、湯崎知事に「方針を転換するべきだ」と迫った。

 自民議連、公明党議員団と議会運営で協調する民主県政会(14人)の桑木良典氏(三原市・世羅郡)は、「これまでの説明と大きな開きがある。再調査の信頼性を不安視する声もある」と指摘した。

 県は今回、被服支廠の周囲で同時期に造られ、安全面を理由に今年3月に撤去したれんが塀を調査。その結果、コンクリートとれんが造りの建物は実際の耐震性が想定より高く、費用を減らせると見立てた。一方で17年度調査で建物のれんが壁をくりぬいて強度を調べたのに、数値がばらついたとして費用の試算に反映させなかった経緯がある。

 湯崎知事の県政運営と距離を置く自民党広志会・つばさ(7人)の城戸常太氏(呉市)は、前回調査に触れて「これまでの議論の前提を簡単に覆そうとしている」と主張した。3棟保存という「結論ありき」といぶかり、「都合の良い理屈をそろえるための再調査ではないのか」と追及した。

 4会派のほかに、共産党(1人)の辻恒雄氏(福山市)が「全棟保存」を求めた。湯崎知事はいずれの会派にも慎重に答弁。再調査の結果を年内にまとめた上で「県議会としっかり議論し、最終的な方向性を整理する」と繰り返した。

<旧陸軍被服支廠の耐震性再調査を巡る広島県議会の主要4会派の主な見解>

会派名(所属議員数)
自民議連(33人)

主な見解
耐震化費用が抑えられることだけをもって「2棟解体、1棟の外観保存」を転換するべきではない

会派名(所属議員数)
民主県政会(14人)

主な見解
再調査の信頼性を不安視する声もある。新たな調査結果を分かりやすく説明する必要がある

会派名(所属議員数)
自民党広志会・つばさ(7人)

主な見解
議論の前提が覆る。(3棟保存の)結論ありきで、都合の良い理屈をそろえるための調査ではないのか

会派名(所属議員数)
公明党議員団(6人)

主な見解
耐震化費用が大幅に圧縮できるのであれば、「全棟保存」も可能。方針転換をするべきだ

旧陸軍被服支廠(ししょう)
 旧陸軍の軍服や軍靴を製造していた施設。1913年の完成で爆心地の南東2・7キロにある。13棟あった倉庫のうち4棟がL字形に残り、広島県が1~3号棟、国が4号棟を所有する。県は、築100年を超えた建物の劣化が進み、地震による倒壊などで近くの住宅や通行人に危害を及ぼしかねないとして、2019年12月に「2棟解体、1棟外観保存」の安全対策の原案を公表。県議会の要望などを受け、20年度の着手は先送りした。4号棟は、所有する国が県の検討を踏まえて方針を決めるとしている。

(2020年9月29日朝刊掲載)

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