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原告に被爆者手帳交付 「黒い雨」 広島市と県が開始

 広島への原爆投下後に降った「黒い雨」を巡る訴訟で、広島市は2日、国の援護対象区域外で被害に遭ったと訴えて勝訴した原告に対し、被爆者健康手帳の交付を始めた。初日は10人に手渡した。広島県が担当する広島市外の市町在住の原告への交付も始まった。

 広島市役所本庁舎にはこの日、午後1時半と2時半の2回に分かれ、原告や代理の親族が訪れた。市の担当者から受け取った手帳をしみじみと見つめ、安堵(あんど)の表情を浮かべた。その後、原則無料となる医療費や介護保険サービス利用料の助成のほか、原爆症認定などの援護制度の仕組みについて説明を受けた。

 原告団の高野正明団長(83)=佐伯区湯来町=は「長年の希望だった。支えてくれた人たちに心から感謝したい」と喜んだ。湯来町で黒い雨を浴びた原告の日下武子さん(78)は「ここまでの道のりは長かったが、病気にかかってばかりなので手帳があると助かる。原告以外も早く救済してほしい」と求めた。

 市が手帳を交付する原告は53人。3日は30人、5日は1人に手渡す。残る12人は日程を調整中という。

 市外の原告は、安芸太田町27人、安芸高田市と府中町が各2人の計31人。安芸太田町にはこの日午前10時半に郵送で手帳が県から届いた。職員が名前などを確認した上で19人へ発送。町の窓口を訪れるなどした7人には直接手渡した。残る1人は3日に窓口で渡す。

 安芸高田市は2人のうち連絡が取れた1人に手渡した。もう1人は交付の案内を自宅に郵送した。府中町は3日にも発送する。

 訴訟では、一審の広島地裁判決に続いて広島高裁判決も原告84人全員を被爆者と認定し、県と市に手帳の交付を命じた。国は上告を断念し、判決が7月29日に確定した。原告のうち14人は提訴後に死亡したため、遺族が承継。判決後に1人が亡くなった。それぞれ遺族が手帳を受け取る。

(2021年8月3日朝刊掲載)

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