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「原爆の絵」展示 首都圏で高評価 基町高の生徒作品 「被爆者と共同作業」に感銘

 被爆者の体験に若者が耳を傾け、実際に見たこともない光景を絵にして自分なりに伝える。基町高(広島市中区)の生徒が描いてきた「原爆の絵」の展示会が今夏、東京都や埼玉県で相次ぐ。見た人の心を揺さぶり、記憶を受け継ぐ作品として評価を高める理由について展示会の主催者は「世代を超えた伝承の共同作業だから」と口をそろえる。

 原爆投下後、広島に降った「黒い雨」を浴びて立ちすくむもんぺ姿の少女、水を求め防火水槽に頭を突っ込んだまま重なるようにして息絶えた人たち…。埼玉県の飯能市立博物館で開催中の「ヒロシマ・ナガサキ原爆資料展」の一角を占める原爆の絵の原画5点に、来場者が見入っていた。

 同市の中学2年泉陽葉(ひよ)さん(13)は「描写が精緻で、悲惨な様子が生々しく伝わってくる」。連れ添った母綾花さん(37)は「被爆者が見た光景をじかに聞きながら仕上げる工程に感心した。その分、描き手の思いがにじむのかな」と思いを巡らせた。

 原爆の絵は2007年度から基町高創造表現コースの生徒が被爆者を同校に招くなどして半年以上かけて仕上げる。同校に制作を依頼する原爆資料館(広島市中区)によると、これまで171点が完成。県外からも展示の引き合いが増えているという。

 遺品などと合わせて紹介する飯能市立博物館の引間隆文学芸員は「来場者アンケートで最も評価が高い。首都圏は被爆地に比べ原爆平和への関心が薄いと思っていたが、高校生と被爆者の共同作業に感銘を受ける人が多い」と話す。

 東京・有楽町の東京交通会館では8~14日、パネル展が開かれる。17年に広島の展示会で見て引かれたという実行委員会の大越貴之事務局長(49)=杉並区=が19年に始め、今年は30点を被爆証言の解説と一緒に紹介する。「二度と被爆者を生まないでほしいという願いを背負う高校生の覚悟を作品に感じる。老いを深める被爆者の記憶を後世に伝える営みを広めたい」。大越さんは展示を毎夏の恒例にすると意気込む。

 6日の広島原爆の日と9日の長崎原爆の日を忘れないための「一行のコトバ」を市民から募る取り組みを続ける東京都国立市は、19年から入選作と原爆の絵のパネルを組み合わせて市公民館などで展示している。

 飯能市のヒロシマ・ナガサキ原爆資料展は9月5日まで。期間中は8月9日を除く月曜休館。東京交通会館のパネル展は入場料500円。小学生以下無料。国立市のパネル展示は19日まで。(樋口浩二)

(2021年8月5日朝刊掲載)

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