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原爆症認定 放射線起因性が焦点 国の検討会が新基準づくりへ

■記者 岡田浩平

 厚生労働省の「原爆症認定制度の在り方に関する検討会」の初会合が9日に省内である。被爆の実態に沿った制度の見直しへ、病気と原爆放射線との関連(放射線起因性)をどう判断するかなどが焦点となる。

 検討会メンバーは14人。日本被団協から坪井直代表委員(85)と田中熙巳(てるみ)事務局長(78)が加わる。座長は、過去にも同省の原爆関連の検討会座長を務めた森亘・元東京大学長。ほかは社会保障、経済学、行政法、放射線防護学、内分泌科の専門家ら多彩だ。

 事務局の厚労省健康局総務課は人選について「幅広い観点から議論をするため」と説明する。被団協側には「科学論議にとらわれなくてすむ」と歓迎する声がある一方、国の財政面や他の社会保障政策をにらみ救済対象を狭める議論に陥らないか、などの懸念も漏れる。

 最大のポイントになるとみられるのが放射線起因性の判断だ。2008年4月に取り入れた「積極認定」などの現行基準は、原爆症認定集団訴訟で争ってきた旧基準に比べ、起因性の判断を大幅に緩めた。

 それでも被爆者側が制度の見直しを求めてきた背景には、司法判断との隔たりがある。国が現行基準で認定しない被爆者を、司法は相次ぎ認めた。また積極認定すべき白内障や心筋梗塞も結果として爆心地から近距離で被爆した場合しか認定しておらず、対象の病気も増えていない。

 田中事務局長は「認定基準を設け数値で線引きするのは簡単だが、放射線の影響は被爆状況を総合的に判断するべきだ」と指摘する。被団協は、あらかじめ政令で定めた病気に被爆者がなれば、原爆症と認めるよう主張してきた。検討会では「原爆被害に対する国家補償」の観点での議論も求める方針だ。

 厚労省は、議論の範囲や結論を得る時期について明言していない。「小手先の基準の再緩和ではなく、被爆者援護法改正も含む抜本見直しを」。そう求める被爆者の高齢化は進む。議論のスピード感も欠かせない。

原爆症認定は19% 7~9月

 厚生労働省は7日、今年7~9月に処分を決めた原爆症認定申請1884件のうち、認定が354件、却下が1530件だったと発表した。

 9月に4~6月分を公表したのに続き、1件ごとの病名や却下理由を明らかにしたのは2回目。今回の認定率は約19%で、1回目の約15%に続き2割を下回った。

 却下で最も多いのは白内障で544件、次いで悪性・良性腫瘍の343件。理由はほとんどが「放射線起因性が認められない」だった。

原爆症の認定基準
 原爆症認定集団訴訟での国の相次ぐ敗訴を受けて見直され、2008年4月から現行基準を採用している。(1)被爆地点が爆心地から約3.5キロ以内(2)原爆投下から約100時間以内に約2キロ以内に入市(3)投下から2週間以内に、爆心地から約2キロ以内に1週間程度滞在―の条件を設定。がん、白血病、副甲状腺機能亢進(こうしん)症、白内障、心筋梗塞、甲状腺機能低下症、肝機能障害(慢性肝炎・肝硬変)を積極認定する。それ以外は、個別に総合判断する。

(2010年12月8日朝刊掲載)

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