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4人の集落…消滅の危機 廿日市市大虫 1年で半減 移住一家だけの冬に不安も

 広島市中心部からわずか20キロ余り西にある山里の集落が、消滅のふちに立っている。かつて約150人が暮らした廿日市市虫所山の大虫集落は、現在は2世帯4人だけ。この1年で半分に減った。高齢の1人が今月下旬、春までいったん集落を離れる。冬を過ごすのは、1年半前に栃木県から移住してきた楠田泰久さん(32)一家3人だけになる。(村上和生)

 「よく降りましたね。大丈夫ですか」。1人で暮らす川口アツエさん(87)宅に楠田さんと妻瑞穂さん(32)長男楓羽太(ふうた)ちゃん(2)が顔をのぞかせた。屋根や庭に20~30センチの雪が積もる。

 川口さんは17年前から、冬場は約6キロ離れた麓の別宅で過ごす。積雪でデマンドバスが使えず、買い物や通院が不便だから。「一時とはいえ、大虫を置いて出て行きたくないよ」。後ろめたさを隠さない。終戦直後は数十人の子どもの声が響いた集落は、1963年の38(さんぱち)豪雪を境に人口が激減した。ことし2人が亡くなり、2人が入院して離れた。古くからの住民は、75年間暮らす川口さんだけとなった。

 楠田さん一家は昨年3月、福島第1原発の事故を契機に移り住んだ。広島市佐伯区出身の瑞穂さんの実家近くに、安心して子育てできる環境を求めた。瑞穂さんが近くの農園で研究職として働き、楠田さんが家事や畑仕事などをこなす。

 今月上旬、積雪で麓に向かう山道は冬用タイヤでも通行できず、瑞穂さんと楓羽太ちゃんは仕事と保育園を休まざるを得なかった。麓などに移住した元住民が農作業に通うが、稲刈りを終えた今、白く染まった集落に人影はほとんどない。

 総務省によると、交通条件などに恵まれない中山間地域や離島に国が財政支援する「辺地」はことし3月末現在、中国5県では広島246カ所、岡山229カ所、島根205カ所、山口102カ所、鳥取88カ所。10年前に比べて10~25%減った。支援対象となる人口50人を切った地域が増えたためとみられ、各地で集落は縮み続ける。

 にぎわいを大虫集落に取り戻そうと、元住民たちが昨年からイベントを春に開き、楠田さんも運営に加わる。「自然の中の暮らしを楽しみ、集落の役に立ちたい」と楠田さん。ただ、瑞穂さんが来年3月に第2子の出産を控え、冬場の移動や将来の子育てに不安がないわけではない。

 島根県中山間地域研究センターの昨年の調査では、県内の中山間地域にある218地区の33%で、4歳以下の子どもが5年前より増えた。子育て世代の移住などが理由という。藤山浩研究統括監は「田舎暮らしに憧れる都会の若者は多い。移住の受け入れには、住居探しや子育てなどで住民、行政の積極的な支援が欠かせない」と話す。

(2014年12月18日朝刊掲載)

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