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原爆症集団訴訟が終結 判決 内部被曝を考慮

 原爆症認定集団訴訟が21日の大阪地裁判決で事実上、終結した。一連の判決では、原爆と病気との関連(放射線起因性)の判断で国が軽視してきた内部被曝(ひばく)の影響を認めてきた。今後、原爆症の新たな仕組みづくりや福島第1原発事故の被害者対策にどう反映するか、国の姿勢が問われる。

 「内部被曝の影響の程度は専門家の間で意見が分かれ、無視し得るものだと前提にした原爆症認定審査は相当とは考えられない」(2009年5月の東京高裁判決)。「現段階でも研究が継続されており、従前疑問とされてきたものが裏付けられる可能性もあり、小さいと断ずべき根拠は直ちに見当たらない」(11年7月の東京地裁判決)。

 原告側は訴訟を通じ「外部被曝に比べて内部被曝の方が影響は大きい」などと主張してきた。被爆者の個別の内部被曝線量も分からない中、認定を迫るポイントとなったのは被爆の実態だったという。全国弁護団の宮原哲朗事務局長は「被爆の実態から出発し、それを説明する一例として内部被曝の影響を認める科学的知見を示した」と話す。

 ただ各判決は、厚生労働省が認定審査で内部被曝を重視しない理由とする「内部被曝線量は自然放射線による被曝線量と比較しても少ない」という「一般的な科学的知見」を否定したわけではない。和田康紀・被爆者援護対策室長は「一般的な科学的知見を踏まえずに放射線起因性を議論するのは難しい」。現行の認定審査で科学に立脚する姿勢を崩さない。

 福島の事故を受け低線量被曝の健康影響を検討する政府の作業部会も今月15日の報告で、放射線によるがんのリスクは100ミリシーベルト以下の被曝線量では他の要因に隠れる▽臓器が吸収する放射線のエネルギーが同じなら外部被曝と内部被曝のリスクは同等―と記した。

 作業部会共同主査の長瀧重信・放射線影響研究所元理事長はチェルノブイリ原発事故(旧ソ連)後の調査から「内部被曝の影響は甲状腺がん以外に証拠がない」と説明。判決が内部被曝の影響を認めた意味を「被爆者をもっと援護しなさいという考えだ」と述べ、科学と切り離した施策を模索すべきだと指摘する。

 厚労省の「原爆症認定制度の在り方に関する検討会」でも内部被曝の扱いは論点になる。日本被団協が提案する「被爆者手当」は、被爆者が国際的にも放射線と関連があると認められる病気にかかれば基準額に加算し、個別の起因性の判断を避ける仕組みだ。  山本英典全国原告団長は「条件に合うか合わないか個別に判断すると納得いかない事例が必ず出る。訴訟にならない制度をつくるのが重要だ」と訴えている。(岡田浩平)


原爆症集団訴訟が終結 「今も却下」元原告ら憤り

 原爆症認定集団訴訟が実質的に終結した21日、広島の元原告や支援者たちは「認定基準の見直しにつながった」と成果を実感しつつも、「国は今も多くの原爆症の認定申請を却下している」と憤りを交錯させた。

 広島では64人が原告となり、62人が原爆症認定を勝ち取った。全国で敗訴を重ねた国は2008年に基準を緩和した。だがその後も、国が積極的に認定するとしたはずの病気で却下される事例が続出。被爆者が大阪や広島、長崎で新たな訴訟を起こしている。

 原告の一人、田部恂子さん(82)=広島市南区=は爆心地から1.2キロで被爆。新基準で積極認定となる甲状腺機能低下症なのに申請を却下された。「どうして却下なのか説明もない。納得できない」

 集団訴訟で広島原告団の副団長だった玉本晴英さん(81)=安佐南区=は「国が被爆の悲惨さを本当に理解しない限り、小幅な制度見直しに終始する」と話す。弁護団長を務めた佐々木猛也弁護士は「福島第1原発事故を経てなお、原告が訴えてきた内部被曝の実態を認めない国の姿勢が大量却下の背景にある」と批判する。

 新たな訴訟を支援する広島共立病院の青木克明医師は「国は、高齢化する原告の被爆者が納得する制度へ一刻も早く改正を」と訴える。(金崎由美)

(2011年12月22日朝刊掲載)

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