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広島の原爆 絵本で伝える モンゴルのタミルさん制作 母国の小学校で配布

 モンゴル国籍のツォルモンバータル・タミルさん(34)=ウランバートル市=は、広島の被爆体験についての絵本を作り、母国の小学生に配っています。題は「忘れないで 広島のできごとを」。留学先の広島で胸に刻んだことを、母国の子どもたちに伝えたい―。そんな強い願いを込めた一冊です。

 主人公の女の子トッコちゃんが、原爆で亡くなった祖母の最期を伝え聞いたことから、ボランティアガイドを始めるというストーリー。トッコちゃんのモデルは、原爆資料館のピースボランティア、品川俊子さん(73)=南区=です。

 2008~12年、広島市内の大学に留学していたタミルさん。品川さんと出会い、聞き取った話が絵本のベースになりました。

 今年8月に500部作成。国内の小学校に順次、配っています。「人が炎にのまれる場面が怖い」「自分のおばあちゃんだと想像したら…」。絵本を読んだ子どもたちは素直な感想を口にしました。

 タミルさんは留学中、広島では誰もが原爆について考え、平和を願っていると実感しました。「大切な人を原爆で失った」「祖父母が被爆して」という話を身近に聞き、平和という言葉が現実の経験に裏打ちされているのを感じたそうです。「絵本を通じて、モンゴルでも子ども時代から戦争や平和について考える機会をつくりたかった」

 絵本を配ってから、子どもたちは休み時間に友達同士で「平和って何だろう」と話すようになったそうです。先生の質問に答えたり、宿題で書かされたりするのではなく、子どもの会話で自発的に出てきた「平和」という言葉。タミルさんは自分の思いが伝わったのだと感動しました。

 タミルさんは11月、完成した絵本を携えて品川さんに会いに来ました。じかに報告したかったからです。品川さんは「国境を超えて、広島の出来事や平和への思いを理解してもらい、夢を見るような思い」と目に涙を浮かべました。

 「伝えないと悲しみは風化する。争いに対抗するためには伝え続けるしかない」とタミルさんは話します。平和の尊さを考えることに国籍は関係ありません。(堅次亮平)

(2018年12月16日朝刊掲載)

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