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米方針 核廃絶に逆行 「臨界前」年2回 被爆者ら怒りの声

 米国が臨界前核実験を年2回実施する方針だと明らかになったのを受け、広島の被爆者から怒りの声が上がった。実験の頻度が格段に高まる恐れがあり、核兵器廃絶を訴える団体は、来春にある核拡散防止条約(NPT)再検討会議への影響を懸念した。

 県被団協(坪井直理事長)の箕牧(みまき)智之理事長代行(77)は「臨界前とはいえ実験を強化するとは。ロシアや中国、北朝鮮など他の核兵器保有国を刺激しかねない」と憤る。

 11月に広島を訪れたローマ教皇は原子力の戦争への使用を「犯罪」と断じ、保有も倫理に反するとした。箕牧理事長代行は「トランプ大統領には響いていないようだ」と残念がった。

 もう一つの県被団協の佐久間邦彦理事長(75)は「核兵器の維持だけではなく、使える兵器を造ろうという動きだ。米国が廃絶に向かっていないことがはっきりした」と批判する。「核兵器禁止条約の早期発効が核を使わせない抑止力になる」とし、全ての国に条約締結を求める国際署名に注力するとした。

 NPT体制では、核軍縮を進めようとしない保有国への不満が広がり、非保有国との対立が深刻化。再検討会議に向けても大きな課題となっている。非政府組織(NGO)「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN(アイキャン))の川崎哲(あきら)国際運営委員(51)は「米国の行動は開発競争を防ぐNPTの本質から逸脱し、NPTが保有国に課す核軍縮の義務にも反する」と指摘。「日本政府や市民は『核兵器を強化しようとしているのではないか』と正面から問いたださないといけない」としている。

 実験強化の方針は米エネルギー省の年次報告書で分かった。核弾頭の更新など「核近代化」の計画はオバマ前政権からトランプ政権に引き継がれ、同政権は小型核の開発・製造を進めるなど、核兵器の役割を拡大する方向を鮮明にしている。(明知隼二)

臨界前核実験
 核兵器の改良や、性能・安全性の評価を目的とする模擬実験の一つで、核爆発は伴わない。核分裂の連鎖反応が続く「臨界」にならないよう少量のプルトニウムなどの核物質に高性能火薬の爆発で衝撃を与え、反応を調べる。米国は1992年に地下核実験を停止。97年から臨界前核実験を始め、これまでに約30回実施した。「核なき世界」を訴えたオバマ前政権下で4回、トランプ政権下で2017年12月と今年2月の計2回行われた。包括的核実験禁止条約(CTBT)の対象外と主張するが、条約の精神に反するなどとの批判もある。ロシアも実験したことがある。

(2019年12月24日朝刊掲載)

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