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原爆調査 シャル氏の回想録 広島大名誉教授 利島さん翻訳

「米研究者の葛藤 伝わる」

 米国が原爆投下後に設立した原爆傷害調査委員会(ABCC、現放射線影響研究所)の遺伝学者として1949年に広島へ赴任したウィリアム・シャル氏(2017年に95歳で死去)の回想録を、広島大名誉教授(発達神経心理学)の利島保さん(76)=東広島市=が翻訳した。7月に出版する。調査の様子や、米占領期の広島の姿を克明に記している。(桑島美帆)

 原題は「Song among the ruins(廃虚の中からの歌声)」(1990年、ハーバード大学出版局)。シャル氏は広島と長崎で約7万7千人の新生児調査を担当し、後に放影研の副理事長を務めた。帰国後はABCC関連の資料を集めてテキサス医療センターにアーカイブを設立、公開することに尽力した。

 利島さんは2011年の東京電力福島第1原発事故の後、広島大大学院が実施する復興支援プログラムを練る中でシャル氏の著書を知った。「被爆地の復興過程や、米国人研究者として広島で抱いた心の葛藤がよく分かる」と思い立ち、約1年かけて翻訳した。

 「赤ん坊が生まれると助産師と家庭を訪問し健診した。われわれの青い車はどこでも知られていた」「乳児の著しい異常や死産が確認されると、すぐ助産師から連絡が入り詳しく調べた」と記す。本通り(広島市中区)のにぎわいや、紙芝居を楽しむ子どもたちの姿、広島で得た多くの友との交流などもつづる。

 一方で「ABCCは被爆者を調査対象のモルモット扱いしている」という批判には「私たちの役割は、発生した生物学的損傷を評価し、報告すること」と述べ、研究者の立場を淡々と貫いた姿勢が垣間見える。

 放影研の丹羽太貫理事長は「シャル先生は日本の遺伝学研究の基礎を築いた人でもある。研究者の枠を超え、驚異的な記憶力と探究心で当時の広島と長崎の日常にも目を向けた本は貴重だ」と期待を寄せる。

(2020年1月27日朝刊掲載)

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