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有識者懇 被爆遺構 展示施設を承認 広島市、設計へ

 平和記念公園(広島市中区)地下に残る旧中島地区の被爆遺構の展示公開に向けた市の有識者懇談会が29日、中区の広島国際会議場であり、住居跡など遺構の実物を展示する平屋施設を建てる市の整備方針案を承認した。市は今後、原爆の非人道性を知ってもらう新たな施設の設計作業を進める。(明知隼二)

 展示する遺構は、被爆前に商店や住居が並んだ旧天神町筋の一角。市の案では、平屋の見学施設を新たに建設し、住居の焼け落ちた土壁の実物、焼けて炭化した畳や板材のレプリカといった遺構をその場で展示する。建物内の展示スペースでは、露出した遺構面(約4メートル四方)に沿って仕切りを設け、見学者が間近で見られる形を想定。中島地区や天神町筋の説明板も設け、温度や湿度を24時間管理する空調も備える。

 市は建物を設けずに遺構を強化ガラスで覆う案も検討したが、温度や湿度の管理が難しい上、遺構が見づらい可能性もあり、建物が必要と判断した。

 委員は6人が出席。公園内の原爆資料館との連携や遺構を管理する適正な人員配置などを求めた上で、案を承認した。今後は施設の詳細な設計を検討する。

 この日は、原爆投下の約5カ月前まで同地区の旧天神町で暮らした森川高明さん(80)=西区=の証言も聞いた。被爆死した伯父と伯母が営んだ印刷所、兵士が滞在した旅館など、幼い頃に過ごした一帯の様子を語った。森川さんは展示について「訪れる人に強力なメッセージを伝え、核兵器廃絶の大きなうねりにつながる」と強調した。

住人特定の努力不可欠

 米国による原爆投下で日々の営みが一瞬にして奪われた事実の重みを、どう伝えるのか―。29日に広島市中区であった旧中島地区の遺構展示に関する有識者懇談会では、見学者に原爆被害の非人道性を訴え掛ける展示とするため、見つかった住居跡の住人の特定などを求める意見が出た。

 「出土した遺物で、見る人にどれだけインパクトを与えられるか。一度立ち止まり、現状を再評価してはどうか」。市民団体「広島平和記念公園被爆遺構の保存を促進する会」の世話人で、元住民の森川高明さんは、懇談会でそう直言した。

 展示予定場所でこれまでに見つかったのは、建物の痕跡ばかり。同じ公園内の原爆資料館本館の耐震改修に伴う調査で、焼け焦げたしゃもじなどが見つかったのに比べ、直接的に生活を想像させる品が乏しいのが実情だ。同会世話人代表として懇談会委員に加わる多賀俊介さん(70)=西区=も「会としては今回の場所では不十分だと考えている」とあえて明言した。

 それだけに2人が重視するのが、住居に誰が住んでいたかの特定だ。森川さんは、市民や報道機関による過去の調査、米軍が高解像度で撮影した原爆投下前の航空写真、写真と地図を重ねるデジタル技術の活用などを提案。「暮らしていた人の生と死の物語に行き着けば、強いメッセージになる」と訴えた。

 中川治昭・市被爆体験継承担当課長は「被爆の実相を訴える上で、どんな人が暮らしていたかを示すのは価値がある」とし、引き続き特定に向け調査をすると回答。特定に至らない場合も「一帯がどのような町だったかなどを示し、失われたものの大きさが伝わる工夫をする」と強調した。

 市は年度内をめどに展示の基本計画をまとめ、2020年度中の公開を目指す。懇談会副座長の高妻洋成・奈良文化財研究所埋蔵文化財センター長は「ただ見せるのでなく、見る人に感じてもらうため、どのような情報を示せばいいか。懇談会で議論を重ねたい」とした。

 遺構展示は、そこで奪われた暮らしの一端を感じ、原爆資料館を補う施設となり得る。訴える力を高めるため、市には住人の特定へ最大限の努力が求められる。(明知隼二)

(2020年1月30日朝刊掲載)

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