×

ニュース

佐々部監督急逝 悼む声 「夕凪の街 桜の国」など地方映画に情熱

 次回作の準備で訪れていた下関市で3月31日に急逝した佐々部清監督。ヒットした大作「半落ち」(2004年)で知られる一方、故郷の山口県を舞台にした作品や、広島市で撮影した「夕凪(なぎ)の街 桜の国」(07年)など、「地方映画」に情熱を傾けた。62歳での早過ぎる別れに、悼む声が広がる。

 萩市を舞台に「老老介護」という社会派のテーマに挑んだ「八重子のハミング」(16年)。アルツハイマー病の妻を介護した元萩市教育長の陽(みなみ)信孝さん(81)の手記に感動した佐々部監督が、自ら資金集めに奔走し、8年越しで完成にこぎ着けた。陽さんは「長年の友を亡くした気持ち。感性の豊かさや優しさが作品にもにじみ出ていた。感謝しかない」。

 太平洋戦争末期に人間魚雷「回天」で特攻出撃した若者を描いた「出口のない海」(06年)では、訓練基地があった周南市大津島を何度も訪れた。回天記念館館長の松本紀是さん(74)は「搭乗員の心を知ろうとする真剣な姿勢が印象に残る。幅広い世代に悲劇を伝えてくれた」と功績をしのぶ。

 広島市西区出身の漫画家こうの史代(ふみよ)さんの原作で、被爆をテーマとした「夕凪―」。中区の平和記念公園でのロケハンに同行した広島フィルム・コミッションの西崎智子さん(54)は「小学生が声を合わせて平和を誓う姿に涙していた。作品に同様のシーンが盛り込まれた」と秘話を明かす。市民グループの自主上映会には自費で駆け付け、交流を深めていたという。

 昨年12月に中区で開催された「食と農の映画祭」では、赤磐市で撮った「種まく旅人 夢のつぎ木」(16年)の舞台あいさつに登壇した。事務局の友川千寿美さん(67)は「地方映画の企画が3、4本控えていると言って、元気な笑顔を見せていた。地方への愛情があふれる監督だった。無念でたまらない」と悲しむ。

 山口県の文化功労賞を受け、県の魅力を発信する「山口ふるさと大使」も務めた佐々部さん。村岡嗣政知事は「作品はどれも素晴らしく、これからもどんどん作品を世に出してくれると期待していた。大変優しい人柄で、初対面ですぐ打ち解けたのを覚えている」としのんだ。

(2020年4月4日朝刊掲載)

年別アーカイブ