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原爆慰霊祭 縮小の動き 絶やしたくないが…密集不可避 開催見極め悩む主催者も

 8月6日の原爆の日とその前後に広島市内各地で開かれる慰霊祭で、新型コロナウイルス対策として規模を縮小する動きが出始めている。主催する学校や労働組合などは「慰霊の営みは絶やしたくない」との思いを持つが、密集状況を避けられないとみて、人数制限や一部行事の中止を探っている。緊急事態宣言の解除による「自粛解禁ムード」を受けて、開催の見極めに悩む主催者も出ている。(加納亜弥、明知隼二、寺本菜摘)

 「今までこんなことはなかった。平和学習を継承する上でも意義深いのに…」。毎年8月4日、平和記念公園近くで「原爆犠牲国民学校教師と子どもの碑」の慰霊祭を主催する維持委員会の阿部直文事務局長(57)は声を落とす。

 参列者は例年、遺族や小中学生たち約500人を数える。しかし今年は「密集を避けられない」とみて、原則として委員会事務局の大人に絞る予定だ。児童生徒から折り鶴が寄せられた場合は代わりに手向ける。

 中学校の教諭でもある阿部事務局長は「学校の授業をどう追いつかせるかで現場は必死。平和教育が入り込める余地はあるのだろうか」と気をもむ。

 中国新聞が市内各地で毎年、慰霊の式典を主催する組織や学校など計42団体に電話で問い合わせたところ、8団体が規模縮小を決定、もしくは検討していると答えた。32団体は未定とした。2団体は「屋外で開くため密閉空間ではない」などの理由で、例年通り開催する意向を示した。

 国泰寺高(中区)の前身で、生徒353人が犠牲になった広島一中原爆死没者慰霊祭も、規模縮小を検討している。同窓会は「ご遺族は高齢化している。特に遠方からの参加は難しい」。吹奏楽などで参加する生徒も練習がままならず、参列者の絞り込みも想定する。

 広島市の松井一実市長は今年の平和記念式典の規模縮小を検討しており、5月中にも具体案をまとめる。「嵐の中の母子像供養式」を営む市地域女性団体連絡協議会や、県立広島第一高等女学校原爆犠牲者追悼式を開く皆実有朋会は「市の方針に合わせる」としており、慰霊祭の縮小はさらに広がる可能性がある。

 同窓会と学校が連携して開いているケースでは、臨時休校に伴う学校行事などのスケジュール変更が影響しそうだ。毎年校内などで追悼式を開く比治山女子中・高(南区)は「7月の行事すら決まっておらず、議論できていない」と説明。広島大付属中・高(南区)や崇徳学園(西区)は、休校期間が明けた6月以降の判断になるとしている。

(2020年5月18日朝刊掲載)

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