ヒロシマは6日、54回目の「原爆の日」

'99/8/5

 広島はあす六日、被爆五十四周年の「原爆の日」を迎える。昨年 のインド、パキスタンの核実験以降、核不拡散体制は大きく揺らい だままだ。国内では日米防衛協力のための新指針(ガイドライン) 法が五月に成立した。核兵器廃絶を願い続けてきた被爆者は老いを 深める。核兵器のない二十一世紀を実現させるために、ヒロシマを どう次代に伝えて行くのか。体験継承の責務は重みを増している。

 被爆者健康手帳の所持者は三月末現在、全国で三十万四千四百五 十五人。一年間で七千二百四十九人減った。広島市内の所持者は九 万千九百四十人(男三万五千六百七十九人、女五万六千二百六十一 人)。平均年齢は六八・七歳と昨年より〇・六歳上がった。八十歳 以上が一六・九%を占めるなど高齢化が一層進む。

 広島市内では今年、体験継承をめぐる新たな出会いや学びの場が できた。中区の袋町小学校で今春、校舎壁の漆喰(しっくい)の下 から被爆直後の伝言の一部が現れ、それを教材にした児童たちの平 和学習が始まった。原爆資料館では、四月から五十人余りのヒロシ マ・ピース・ボランティアが来館者を案内している。

 東西冷戦が終わって十年。核軍縮をめぐる世界の状況は足踏みを 続けている。昨年五月のインド、パキスタンの核実験で、核拡散防 止条約(NPT)体制は大きく揺らいだ。米ロなど核大国は包括的 核実験禁止条約(CTBT)の批准をまだ終えていない。コソボ紛 争では、北大西洋条約機構(NATO)側が核兵器使用を示唆する など、ヒロシマの訴えはまだ浸透していない現実がある。

 「核不拡散・核軍縮に関する東京フォーラム」が七月、米ロ戦略 核をそれぞれ千発以下までに削減し、そのうえで核廃絶の「一歩手 前」の実現を目指す報告書をまとめた。ヒロシマの訴えを世界に届 けようと、昨年春発足した広島平和研究所による「現実的で具体的 な核廃絶への道筋づくり」の成果である。国際政治の場で、日本政 府が核軍縮を推進する流れを作り出すきっかけに、との期待がかか る。

 一方で、報告書は核廃絶に期限をつけておらず、「核の傘の下に あっての訴えには限界がある」との指摘もある。

 日本と米国との軍事協力関係の強化を懸念する声も出ている。ガ イドライン法は成立したが、自治体協力の中身などは不透明なまま である。

 世代を、国境を超えてヒロシマの記憶を語り継ぐ営みが被爆地の 課題となっている。秋葉忠利広島市長も就任後初の平和宣言で、被 爆者の意志を継ぐよう若い世代に呼び掛ける。


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