2000年7月13日

5被爆地の役割

廃絶へ声を行動を 医療面での貢献も
 
 「劣化ウラン弾という兵器を知ってる?」

 昨年十一月、劣化ウラン弾についての本格的な取材にかかる前に、知人の被爆者や広島在住のアメリカ人らに尋ねてみた。残念ながら、ほとんどの人は言葉さえ知らなかった。「沖縄で使われたので、名前だけは聞いたことがある」と言う人も、実態となると知らないに等しかった。

 取材通じ影響学ぶ

 私自身、過去十年余り広島・長崎以後の世界の放射線被害者や核状況などについて継続的に取材しながら、劣化ウラン弾への関心は今ひとつ薄かった。一連の取材を通じて、劣化ウラン弾が人体や環境にもたらす影響について学び、それがいかに非人道的な兵器であるかを知った。

 私たちは被爆の実相を世界に伝え、核兵器廃絶を訴える中で、核実験や核兵器工場、原発事故などで世界各地に膨大な数のヒバクシャが存在することを知っている。そして今、新たに米国や英国、イラク、ユーゴスラビアなど多くの国々に、劣化ウラン弾という放射能兵器による「知られざるヒバクシャ」がいることに気づいた。

 チェルノブイリの被災地域や、旧ソ連の核実験場があったカザフスタンのセミパラチンスクなどへは、広島の市民や被爆者治療にかかわる専門医らが訪ね、医療支援などを通じて交流を深めている。

 制裁解除を求める

 こうした輪を経済制裁との二重苦にあえぐイラクのヒバクシャや医療関係者らに広げていくことはできないだろうか。

 バグダッドで取材中、一九六〇年代の米公民権運動で重要な役割を果たした元司法長官のラムディ・クラークさん(72)ら約五十人のアメリカ人らに会った。ニューヨーク市に拠点を置く市民団体「国際行動センター(IAC)」が集めた四百万ドル(約四億二千八百万円)分の医薬品を届けにきたのだ。

 「大切なのは人道に基づいての支援。イラクの窮状に対し一番責任を負うアメリカ人をはじめ、世界の多くの人々がこの国の実態を知って周りの人たちに伝え、経済制裁を終わらせることが重要なんだ」とクラークさん。

 米政府などによってつくられた「ならず者国家」像としてのイラク国民。彼らとの直接的なつながりが、相手への誤ったイメージを取り除き、イラク人もまた自分たちへの見方を変えるという。

 県や市とも協力を

 「広島市民をはじめ日本人なら、被爆体験に基づいてイラク人に核戦争の恐怖や、平和のメッセージをわれわれ以上に伝えることができる。その役割を積極的に担ってほしい」と、クラークさんは被爆地や被爆国の日本人に期待を寄せた。

 私たちにはIACのように何億という資金を集め、医薬品や医療器具を購入するだけの力量はないかもしれない。しかし、市民が力を合わせ、広島市や県などとも協力できれば、例えばがん治療に当たるイラク人の医師一~二人なら広島に招き、被爆者医療機関で研修を受ける機会を提供できるかもしれない。

 イラクへの経済制裁を政府に解除するよう要請し、政府から米国政府に同じ措置を取るように求めることはできるだろう。米・英の退役軍人らが掛け替えのない健康を犠牲にして学び、そして今は劣化ウラン弾の製造・使用禁止を求める彼らや世界の市民の運動に連帯することも可能である。

 九七年十二月、「非人道兵器である」として、対人地雷全面禁止条約が結ばれた。当時外相だった故小渕恵三前首相は積極的に支援し、カナダ・オタワで自ら条約に調印した。

 非人道兵器という点では、劣化ウラン弾も変わらない。しかも、それは核分裂や核融合を伴わないものの、原爆や水爆と同じ放射性物質を利用した放射能兵器である。

 核兵器廃絶と同じように、劣化ウラン弾の使用禁止、廃絶に向け、被爆国の政府も国民も、積極的に発言し、行動する責務を負っている。そのイニシアチブを被爆地から発揮したい。
     (田城 明)
 
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イラクの保健省へ医薬品を届けるラムディ・クラークさん。「通常兵器であれ、戦争は最大の環境破壊だ」(バグダッド市)

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