2000年4月13日
 9 国防総省
疾病との関係認めず  「科学的な裏付けない」

  バージニア州フォールズチャーチ市にある複合ビル九階。厚いドアを押し開け、奥の部屋に案内されると、元陸軍大将のデール・ベッサーさんが待っていてくれた。軍役を離れた今は、国防総省(ペンタゴン)が一九九六年十一月に設立した「湾岸戦争疾病に関する特別援護局」(OSAGWI)の局次長を務める。

  批判の中 局を設立

 「湾岸戦争で大勢の兵士が病気になっていながら、ペンタゴンは何もしていない」。退役軍人や議会などから批判を受ける中、「今後は客観的で、徹底した疾病についての調査をする」との目的で、特別援護局は誕生した。

 ベッサーさんとのインタビューには、医学担当者ら四人も加わった。いかにもガードを固めてといった、物々しい雰囲気が漂った。

 「湾岸戦争に参加した兵士たちの病気の原因として、劣化ウランや抗化学兵器剤である臭化ピリドスチグミン(PB)、油田火災、対生物兵器用ワクチン、化学兵器物質など、いろいろと言われている。しかし、現時点で退役軍人の病気が、これらの物質にさらされたことが直接の原因とは考えていない。PBだけは除外できないかもしれないがね」

 ベッサーさんは、思いのほか穏やかな口調で切り出した。劣化ウランの影響を否定する根拠を尋ねると、「それはね…」と身を乗り出して続けた。

 「調査を委託しているシンクタンクのランド・コーポレーションによると、影響があるとする科学的文献は見当たらない。ボルティモア退役軍人病院では、誤射によって劣化ウラン弾の破片を体内に受けた兵士たちの健康調査をしている。確かに尿などに劣化ウランは含まれているが、ここでも病気との関連は見つかっていない」

  「危険性想定せず」

 だが、その中の一人は、既に他の退役軍人病院で左腕の骨の手術を受け、本人は骨がんと信じている。この話をただすと、ベッサーさんは「そのケースは知らない」としながら、さらに説明を加えた。

 「湾岸戦争後にがんになったと主張している退役軍人の多くは、劣化ウランなどの影響ではなく、もっと以前からがん因子を持っていたと考えている。がんの発生までには十年―二十五年の時間がかかるからだ」

 しかし、国防総省内には劣化ウランを体内に取り込むと、肺や腎臓(じんぞう)などの臓器に影響を与えるとの危険を指摘した内部文書が湾岸戦争以前から存在していた。そうでありながら、なぜ兵士たちに警告を与えなかったのか。

 ベッサーさんは慎重に言葉を選びながら言った。「劣化ウラン弾が実戦で大量に使われたのは、今回が初めてだった。だからその危険性については、あまり考えていなかった。劣化ウラン弾によって破壊された戦車などに登って、不必要に被曝(ばく)したのは残念なことだった。しかし、健康に影響するほどのことではない」と。

  将来の使用も明言

 国防総省は一九九八年から、地上戦に参加した兵士たちの被曝の事実だけは公式に認めるようになった。が、疾病との関係についてはかたくなに拒み続ける。将来の紛争や戦争で、劣化ウラン弾をつかう可能性についても否定しない。

 「劣化ウランによる人体への影響については、今のところ科学的な裏付けがない。逆に劣化ウラン弾は、戦車の破壊などで絶大な威力を発揮した。劣化ウラン弾は、核兵器のような大量破壊兵器ではなく、通常兵器だ。フランスやロシアも輸出しており、国際法違反ではない。コソボ紛争の時のように、将来も使われるだろう」

 ベッサーさんは「退役軍人の病気の原因については、態度をオープンに今後も見守る」と言う。しかし、言葉とは裏腹にその姿勢は、退役軍人のいう「見るな、見つけるな」政策を貫いているとの印象をぬぐえなかった。

デール・ベッサーさん
「科学的調査に基づく判断を一番大切にしている」と語るデール・ヘッサーさん(バージニア州フォールズチャーチ市)

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