2000年5月19日
6 武器廃棄所

処分量「湾岸」の20倍 爆破音に住民不安

ハニー湖対岸のシエラ陸軍武器貯蔵・廃棄所の方角を指さす ポール・ビーチさん(左)とキンバリー・ラモスさん(カリフォル ニア州ミルフォード町)ハニー湖対岸のシエラ陸軍武器貯蔵・廃棄所の方角を指さす ポール・ビーチさん(左)とキンバリー・ラモスさん(カリフォル ニア州ミルフォード町)

  ネバダ州リノ市から北西へハンドルを切り、カリフォルニア州境 を越えて三十分余。ハニー湖に面した小さな町ミルフォードに着く と、あらかじめ連絡していたポール・ビーチさん(51)とパートナー のキンバリー・ラモスさん(46)がジープを止め、道路端で待ってい てくれた。

 「初めてだと、家の入り口が分かりにくいんだ」。長いひげを伸 ばしたポールさんが、親しみを込めて言った。人口わずか九十人。 一九八一年、投資家の彼は美しい自然と静寂を求め、サンフランシ スコから移り住んだ。キンバリーさんとは六年前から暮らす。

  「静寂なんてない」

 未舗装の坂道を上り始めて約百メートル。車から降りた二人は道 端の高台に立ち、遠くを指さした。「ほら、湖の向こうの、ちょう どこの先がシエラ陸軍武器貯蔵・廃棄所だ。ここの施設のために静 寂なんてあったものじゃない。最近になって劣化ウラン弾の廃棄ま で分かったんだ」

 ポールさんによると、この軍施設では古くなったり、余ったりし た兵器など年間三万九千トン以上の武器関連物質が、爆破されたり燃 やされたりして処分されるという。既に三十年以上続いており、国 内の基地の統廃合が進んだ九五年ころから目立って回数が増え、爆 破規模も大きくなった。

 「十二マイル(十九・二キロ)も離れているし、黒い煙が上がっ ているだけの時は、あまり気にとめていなかったの。それが、九五 年十月のことよ。猛烈な爆破音がして、地震の時のように家が激し く揺れて…」

  家の壁にひび割れ

 二人の家は、そこから二キロ近くも山道を走った所にあった。家 の壁には、今もあちこちにひび割れが残る。「修理に一万ドル(約百 七万円)以上かかったわ。それでも三年越しの裁判では、軍の非が 認められなかったのよ」。悔しそうに彼女は言った。

 多いときは一日で二十八回も爆破が続いた。翌年から上空へ舞い 上がる煙をビデオに収め始めた二人は、その煙がきのこ雲状をなし て四方に広がっていることに気づいた。

 「きっと汚染物質も拡散しているに違いない」。軍の説明が信じ られず、判決後にリノに住む環境活動家と連絡を取るようになった 二人は昨年十月、その活動家から何枚ものファクスを受け取った。 米原子力規制委員会(NRC)が同施設に出した劣化ウランの廃棄 を認める許可証のコピーである。

 それによると、八一年九月三十日までを有効期限とした最も古い ものでは最大二千二百五十七トン。その後五千トンに増え、九七年三月 三十一日までの有効期限のものには二五二〇キュリー(約六千五百 一トン)と放射能の強さで記されていた。湾岸戦争中に米・英軍が使 用したとされる三百二十トンと比較すると、最近の量は二十倍にも達 する。

 ポールさんは、すぐにラースン郡の中心地スーザンビル町で開か れた郡行政委員会の席上でその文書を紹介した。五人の委員をはじ め、州や郡の環境保護局のスタッフ、約五十人の住民も、その事実 を知らなかった。

  がんなど疾病多発

 「みんな本当に驚いたよ。劣化ウランの性質について、まだ知ら ない者もいたけどね」。人口二万五千人のラースン郡では、がんな どの疾病が異常に多いなど、既に住民の間で武器貯蔵・廃棄所の存 在が大きな問題になっていた。

 後日、ポールさんらが契約の内容について軍にただすと「廃棄は していない。他の施設へ移した」との回答だけが返ってきた。

 「施設の性格を考えれば、そんなことを信じる者はだれもいな い」「そうよ。化学物質や放射性物質を、湖や周辺にまきちらして いるに違いないわ」。軍への不信をこもごもに口にする二人の視線 は、松林の間からはるか下方に見える美しい湖に注がれていた。

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