広島市が決定した旧市民球場(中区)跡地利用計画に市議会から「待った」がかかり、26日で1カ月になる。秋葉忠利市長は関連予算の一部を認めなかった議会側の姿勢を批判。事態打開に向けた動きはみえてこない。南区のマツダスタジアム(新広島市民球場)の誕生に沸く117万都市は一方で、「都心」に残った旧球場跡地の利用をめぐって足踏み状態だ。議論の行方を探った。(滝川裕樹、東海右佐衛門直柄)
旧広島市民球場の跡地利用について広く意見を募ります。
球場跡地を中心とする5・5ヘクタールを活用。西側を「緑地」、東側を「にぎわい」ゾーンに位置付ける。約8割は「市民広場」などと名付けた緑地公園を整備する。折り鶴展示施設(折り鶴ホール)は跡地の中央に計画。戦後復興の象徴である球場スタンドの一部を残す。広島商工会議所は跡地西側の現商議所ビルを、東側に移転する。将来的には劇場や文化発信施設を設ける構想も描く。
当面の事業費は33億6000万円。広場は2012年度の利用開始を予定。新商議所ビルは、球場解体後の11年度中に着工、12年度中の完成を目指す。現商議所ビルは13年度以降に解体する。
市は計画策定にあたり、現状では都市公園法の枠内の利用に限られる点を踏まえた。対象となる5・5ヘクタールのうち、国有地である市中央公園内が94%を占めるためだ。
広場や花壇、噴水と並ぶ主な利用メニューとして(1)休養施設(例・休憩所、ベンチ)(2)遊戯施設(ぶらんこ、すべり台)(3)運動施設(野球場、陸上競技場)(4)教養施設(動植物園、野外劇場)などを規定。大規模商業施設やマンションは趣旨になじまないとされる。
議論の行方 |
…旧球場の跡地利用をめぐっては今後、次のようなおおむね三つの道筋が想定される。 |
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旧広島市民球場。跡地利用をめぐる市と、市議会や地元商店街の意見は食い違ったままだ
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異論が根強い折り鶴施設について市が、位置や規模など何らかの修正案を議会側に示し、合意点を見いだす。そして、計画を進めるための経費を盛り込んだ補正予算案を次回以降の定例会に提出する。可決されれば跡地利用は動きだす。だが、調整は難航が予想される。
市議会の定数は55。前回定例会では最終日、全8会派のうち最大会派の自民新政クなど4会派計31人が「周辺関係者の理解が得られていない」と予算案修正に回った。
秋葉市長は、削除された予算案の内容を「住民や商店街など地元意見を聞きながら計画を具体化する費用だった」と説明。計画の白紙化は都心の停滞を招くとしている。
これに対し、市中央部商店街振興組合連合会の望月利昭代表理事は「一等地に折り鶴施設は必要ない。計画を練り直すべきだ」との姿勢を崩さない。
市が計画をスケジュール通り進めるには今秋までの補正予算成立が必要である。藤田博之議長が所属する市民市政クなど予算案修正に同調しなかった4会派(計24人)が事態打開に動くかどうかも焦点の一つだ。
市の計画に反対する議員からは「当面、球場機能を維持するべきだ」との意見もある。自民新政クの木山徳和幹事長は「1年くらいは球場として使いながら計画の再考を」と訴える。
ただ、秋葉市長は現計画について、約3年4カ月にわたる検討を経た決定手続きの「正当性」を強調。前回定例会の閉会後の記者会見では、市の予算案を修正した議会側の対応を「談合」とまで批判している。旧球場を使いながら結論は先延ばしする、との議会側の一部の主張に応じるとの見方は出ていない。
市は、旧球場を10月末に閉鎖する方針を打ち出す。本年度予算にはグラウンドの芝の管理や施設の警備など関連費用を約半年分の約4000万円しか盛り込んでいない。管理事務所も10月末で閉じる。
現実的には秋葉市長が残り半年間の追加分を補正予算で計上しなければ、球場として使い続けることは困難だ。
過去、市議会が市の提出議案を否決、修正したケースではこんな展開もあった。2004年6月の定例会。議会側は広島南道路の工法変更をめぐる市への不満から、高速道路公社への出資金を盛り込んだ補正予算案を認めなかった。
その後、秋葉市長は議案の提案を拒否。結局、道路整備の遅れを避けたい議会側が歩み寄り、市長は10月に補正予算案を再提案し、可決された。
旧球場跡地をめぐって、市の利用計画に「待った」をかけた議会だが、独自の対案を提示する動きはなく、「秋葉市長に批判的な議員にとっては、市の動きを止めること自体が目的」(複数の市議)との見方が強い。
それだけに市幹部は「球場が閉鎖され、野ざらしになれば議会も批判を受ける。そこまで腹をくくった議員が何人いるだろうか」と話し、議会側が歩み寄る可能性に言及した。
旧球場の跡地利用計画で、市議会や地元商店街から最も批判が強いのが折り鶴展示施設。平和への願いの象徴として提案されたが、秋葉市長と議会の対立を生んでいる。
名称は「折り鶴ホール」。世界中から被爆地に寄せられる折り鶴1年分(約10トン)を展示する。NPO法人が整備・運営し、約1億6000万円と見込む整備費は、賛同する市民からの募金を充てる。周囲に巡らす「緑の回廊」では平和に貢献した人々を紹介する。
開発プラン公募の優秀2案のうち、早稲田大名誉教授で建築家の池原義郎氏のグループの「平和祈念堂(折り鶴祈念堂と市民の森)」を土台に具体化させた。池原氏は整備、運営するNPO法人にもかかわる。
選考委の選考理由では平和祈念堂について「新しい市民主導型の事業となる可能性を秘める」と評価の声があった一方で、「寄付金が集まる見通しが明らかにされていない」とも指摘された。
市は中央部に配置している折り鶴施設について、集客イベントの支障にならない場所への位置の変更を検討している。しかし、施設自体の撤回については「コンペの最終決定を覆せば全国の建築事務所やデベロッパーの市への信用を失う」と否定的な見解を示す。
一方、国内外から寄せられる折り鶴の展示、保存について秋葉市長は1999年の就任以来、積極的な取り組みを進める。
2001年には寄贈した個人、団体名の登録・データベース化を開始した。翌02年には、平和記念公園(中区)の原爆の子の像そばに折り鶴を雨露から守る屋根付き台を設置。焼却処分を中止し、市施設での全面保管をスタートさせ、旧日銀広島支店(中区)での展示を始めた。
05年にはアストラム車両基地での展示施設建設を市議会に提案したが、否決された。今年3月末時点で、市内3カ所での折り鶴の保管量は70トンに達する。
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