中国新聞


波紋広げる広島大の付属学校再編案
地域と意見交換の場を


 ■移転可否や存続策 幅広く

 東広島市に本部キャンパスを置く広島大(牟田泰三学長)が十年後の将来像として示した付属学校・幼稚園の再編統合案が、波紋を広げている。国立大学法人化で採算性の重視を余儀なくされる大学側は、広島県内五地区に分散する学校を三地区に集約して非効率な体制を改めたい狙いがある。一方、移転を迫られる地域は「街づくりの核を失う」と反発を強める。大学運営の効率化と地域の教育振興をどう両立させるか。関係者の十分な協議が必要だ。(東広島支局 藤原直樹)

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 大学側が四月に示した案は、三原市の幼稚園と小・中学、広島市南区の東雲小・中学を東広島市へ移し、東広島市、広島市南区の翠地区、福山市の三地区に集約する。

 東広島市には、中・高六カ年の東広島中等教育学校と東広島小を新設。東広島市を幼稚園から大学までそろう拠点として整備し、教育研究のレベルアップを図る「選択と集中」戦略を打ち出す。

街づくりの核

 ただ、移転対象となった三原市では反対の声が強まっている。卒業生でもある保道茂樹PTA会長(53)は「寝耳に水の話。幼小中一貫の、のびのび教育の伝統を消してもらっては困る」と存続を訴える。

 三原の付属学校は一九一一(明治四十四)年設立で、一世紀近い歴史を持つ。現在、約八百七十人の子どもが通学し、保護者も含めて動揺が広がっている。

 五藤康之市長は五月末、牟田学長に「移転統合は市の大きな損失」として存続の要望書を提出。「付属学校は街づくりの核。付属の存在が教育だけでなく企業誘致にも役立っている」として計画変更を求める。

 卒業生らで結成した存続期成同盟会の勝村善博副会長(64)は「署名活動に取り組み、市民ぐるみで声を上げていく」と徹底抗戦の構えだ。

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東広島市への移転案が浮上した三原市の付属学校。左側の校舎が小学校、右側が中学校

 東雲の場合は、同じ南区の翠地区に小、中、高校が残る。今のところ反対運動は起きていないが、保護者の間には「伝統校が消えるのは残念。何とか残せないか」と戸惑いも広がる。

 統合再編案について、石井真治副学長(付属学校担当)は「教育学部が東広島に移り、付属学校と離れたため、さまざまな支障が出てきた」と説明する。

 大学教員と付属の教師が訪問し合って教育研究の議論をする機会が減り、教育実習生も電車通学や下宿を強いられている。さらに、付属が十一校あるのは北海道教育大などと並んで全国で最も多く、校舎の老朽化対策など維持管理のコスト負担も少なくない。

 では、なぜ移転対象が三原と東雲なのか。大学側によると、いずれも一学年二クラス(養護、複式学級は除く)と小規模なため、三クラス以上が多い他地区に比べ、教員配置の効率が低いという。

説明なく不満

 中国地方では、広島大と形態は異なるものの、島根大が幼稚園と小、中学を一貫教育化し、学級数を三十八から三十一にする案を検討中。文部科学省は二〇〇一年、「同一学校種の付属学校が複数設置されている例がある」と改善を求める報告書をまとめており、再編の動きは各大学に広がる可能性もある。

 広島大は関係者の理解を得ながら、本年度中に結論を出す方針だ。ただ、三原の保道PTA会長は「いまだに何の説明もない。大学側ばかりで決められても、納得できない」と不満を漏らす。

 付属学校の再編は地域への影響が大きい。それだけに、大学側は学内の論議にとどめず、地域の関係者と協議する場を設けることが必要だ。移転の可否だけでなく、地元の企業や自治体への移管の可能性も含めた学校存続の道や、移転した場合の跡地活用策なども幅広く議論し、地域の教育環境を低下させない解決策を見いだしてほしい。

(2006.6.16)


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