駆除数突出 全国の4割
人獣接近 実態浮き彫り |
![]() 特 集 (02.12.12) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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田畑を守るために駆除するイノシシの頭数が、中国地方は全国で もずば抜けて多い。最新の二〇〇〇年度鳥獣関係統計(環境省)で も、駆除数のトップは島根県で、二~四位も広島、岡山、山口の各 県が占める。十四位の鳥取を合わせた五県で一年間に計一万八千七 百五十四頭、全国の39・3%にあたるイノシシを仕留めている。 駆除頭数の多さは、裏返せば、農業被害のひどさを示す。それだ け、イノシシが山から下り、人里近くの田畑に近寄ってきている現 れだ。 「変なんよ。最近、農地や民家の周りでイノシシが捕れる」。広 島県猟友会の宮口富義副会長(68)=広島市南区=の言葉も、獣の接 近ぶりをうかがわせる。 奥山に分け入る狩猟と違い、駆除は集落や田畑に近い里山が舞台 となる。都道府県別のイノシシ捕獲数を、駆除によるものと狩猟に よるものとに分けてみた。駆除の比率が高いほど、イノシシが居着 いた里山が多い地域、といえる。 中国地方の駆除率は一九八〇年代以降、増え始めた。九〇年代に は五県が軒並み30%以上を記録し、全国平均の22・5%を上回って いる。中でも山口県は51・6%に達し、日本一高い駆除率となっ た。 中国地方のイノシシがなぜ、危険な人里に近づきだしたのか。ま だ、はっきりしない。 すみかの森を人間が開発で奪ったのかといえば、そう簡単に割り 切れない。国内の森林面積は六〇年代から、ほぼ変わらない。50% 強は、里山を含む天然の森だ。統計の上では、森に大きな変化はな い。 「数字上は同じ天然林でも、アカマツが枯れ、イノシシの好きな ドングリがなる広葉樹に生え替わるように、植生はゆっくりと変化 している。森の面積だけでなく、獣たちのすむ森の中身を見つめる 必要がある」。広島大総合科学部の中越信和教授(群集生態学) は、こう指摘する。 「人獣接近」の最前線である中国地方は今、イノシシ研究の拠点 になりつつある。近畿中国四国農業研究センター(本部・福山市) が昨年四月、大田市に鳥獣害研究室を新設。島根県も今年十月、イ ノシシの飼育研究スペースを備えた県中山間地域研究センターを赤 来町に開設した。 現場密着型の両施設とも「獣害に悩む農家に、研究成果を返した
い」と地域主義を掲げる。集落や農業の行く末を遠く視野に入れな
がら、たちまちは今、ここにいる農家に根づかせやすい獣害対策の
開発と普及を急ぐ。
イノシシが日本各地で勢力を広げ、農業被害が問題になってい る。年間の捕獲数は、駆除と狩猟を合わせて十五万頭近くまで増え た。しかし、被害は減っていない。 野生動物による二〇〇〇年度の農業被害額は全国で百三十三億 円。そのうち、イノシシが39%を占めて最も多い。中国、四国地域 でのイノシシによる被害額も、二十三億円に上る。罠(わな)など での捕獲対策とともに、生態や習性を考えた、科学的な食害対策が 望まれている。 こうした状況を受けて昨年四月、近畿中国四国農業研究センター に新しく、鳥獣害研究室(二人体制)が設けられた。イノシシが、 助走なしで高さ一メートル以上を飛び越え、嫌いなにおいにもいず れは慣れるなどの能力が分かってきた。 中国地方に広がる里山は、イノシシにとって格好の生息地であ る。被害が増える原因として、里山から人の気配が薄らいだ▽イノ シシの苦手な積雪量の減少▽飼育場からの脱走―などが考えられ る。多くの場合、これら複数の要因が絡んでいる。 中でも、薪炭の利用低下などで人が里山に入らなくなったり、耕 作放棄地が増えたりと、人間活動の変化が大きい。このため、山と 田畑がひと続きになり、イノシシが里に下り、農作物という「ごち そう」に目を向けてしまった。中国地方に多い中山間地域は、そん な傾向にある。 近年、環境保全や自然保護がうたわれ、農林業でも野生動物との 共生が求められている。「共生」という言葉の響きは心地よい。し かし、共生とは競争関係が落ち着いた状態ともいえ、両者の力が拮 抗(きっこう)して成り立つ。何千年にわたって繰り広げられてき た人間とイノシシとの緊張関係は、今後も続く。
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