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![]() 特 集 (03.2.17) | ||||||||||||||||
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◆農家への獣害補償も負担
ポーランド、フランスでは、イノシシはまさしく、狩猟のための 獣だった。獲物になるから、生態や行動を調べ、すみかの森林管理 に励む。獲物による仕業だからこそ、獣害に遭った農家への補償に 狩猟者団体も納税などで一枚かんでいる。 イノシシにかける「狩猟圧」は、両国ともに高い。ポーランドで
は年間、国内に約十万頭いるうちの八万頭前後を猟で捕る、とい
う。「それでも再び勢力を盛り返すほど、繁殖力が強い動物」(国
際生態学研究所のペジャノスキー博士)とみていた。
「大人のスポーツ、かな」「社交の場なんだ」
何のために狩猟をするのか? 行く先々で尋ねた。「大人のスポ ーツ、かな」「社交の場なんだ」…。いろんな受け答えがあった。 「スポーツだから、獲物にも逃げるチャンスを残す。車や馬で追う のはアンフェア。私は自分の足で追うんだ」。こだわりを説き始め る人もいた。
「狩猟は、野生動物の保護に役立っているんだよ」。ポーランド で会った生態学者イェドリッチコウスキーさん(59)は、誇らしげに 言った。証しが、首都ワルシャワの国立狩猟・馬術博物館にあっ た。狩人が物にした鳥獣のはく製に交じり、シカ角の妙な標本が並 んでいた。ねじ曲がったり、ささくれたり、奇形の角ばかり。 ハンターには、病気や発育不良で弱った鳥獣を仕留める責任があ るという。「本当は、生態ピラミッドの頂点に立つオオカミの仕事 なんだけどね。今はハンターが代役なんだよ」とイェドリッチコウ スキーさん。標本は、角でシカの状態を見分けるハンターのための 教材だった。 フランスの猟区には、簡素だが日本のゴルフ場にあるようなクラ ブハウスがあった。出猟前、たばこやコーヒーを手に談笑し、はや る気持ちをほぐし合う。昼食時に戻ると、自慢のワインを開け、郷 土料理が盛りだくさんの皿を楽しむ。猟に集まった九割方は中高年 の男性だが、妻や中学生か高校生ぐらいの息子や娘も連れてきてい た。「猟は社交の場」というのは本当だった。
クラブハウスには解体場と保冷室が隣り合っていて、地元の精肉 業者がナイフを研ぎ、獲物の到着を待っていた。 肉質が違うのだろう。イノシシを雄雌や年齢別で細かく呼び分け る。日本で「ウリ坊」と呼ぶ幼獣をはじめ、生後四―五カ月の体重 一五キロ前後は「赤毛」、一冬越して毛が生え変わると「黒毛」。 二歳の雄と雌、三歳の雄と雌にも、それぞれの呼び名がある。肉食 文化圏のこだわりには、舌を巻いた。 日本への帰りがけ、パリのドゴール空港の売店で月刊の狩猟雑誌 を見つけた。ファッションや車の雑誌のはざまに三誌が並ぶ。表紙 はどれもイノシシの写真で、一誌には「イノシシへの熱情」という 文字が躍っていた。
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