江口祐輔さん(33) 動物の目線で防衛策を伝授
高さ110センチのハードルを飛び越す野生イノシシをビデオに撮
り、世間を驚かせたのが、近畿中国四国農業研究センターの鳥獣害
研究室(大田市)にいた江口祐輔さん(33)。今年1月、母校の麻布
大(神奈川県)に戻り、動物行動管理学の講師になった。

放し飼いの実験施設に江口さんが行くと、猪が近寄ってく
る(大田市の近畿中国四国農業研究センター)
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跳躍実験のビデオが全国放映されると、センターの電話は鳴り続
けた。「指導に来て」。依頼は関東から九州まで。獣害に悩む農家
には「救世主」と映ったようだ。「イノシシ研究じゃあ(飯は)食
えないと、つい最近まで思われてきた」と笑う。
出身の畜産学科は牛や豚などの家畜が主流。イノシシ研究を選ん
だのは、持ち前の反骨心。世界でも前例のない色覚調査に取り組
み、「赤と灰色を区別しにくい」などを明らかにした。
博士論文は、飼育イノシシのお産や保育行動。「むらおこしブー
ムで飼育に挑み、しくじるケースが当時多くて」。時には牧場で三
日三晩ぶっ続けで観察。「出産後2週間、母親は攻撃的。構うとい
けない」など、飼育のこつを突き止めた。
1999年春、大田市に移り、野生イノシシの実験を始めた。中
国山地の集落もひたすら回った。「この防護さくじゃ、越えられ
る」。獣の目線で感じ、考えられる自分に気付き、農家に還元すべ
き役割を悟った。
イノシシの行動や生態を踏まえ、賢い防ぎ方を農家に伝授する本
を近く、出版する。「研究仲間を増やしたい」と今は、教育職に意
欲を燃やしている。
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