中国新聞社

(11)食べる楽しみ退院後のごちそう夢想

2001/7/15

 治療が始まると、副作用が出てくる。私の場合は脱毛とともに、吐き気に悩まされた。

 脱毛はクリクリ頭にして、後は治療終了後に生えてくるのを待つのみ。人によっては帽子をかぶったり、スカーフを巻いたり。デザインもアップリケが付いたり、フリルがついたりで、それぞれの個性があって、目を楽しませてくれる。

 吐き気はほとんどの人が経験しているようだ。私は、一日中ではなく食事時間に伴って表れた。「お食事の時間です。歩ける方はナースステーションまで…」の放送が流れると、ムカムカしてきた。

 ある日、昼食のおかずに出されたのがサバの塩焼き。その青光りした皮を見た途端、「ムカー」と込みあげてきて、急いで部屋に戻って吐いた。それ以来、「青魚禁」のメニューにしてもらう。

 食欲がないわけではない。テレビの料理番組を見て、退院したらあれ食べよう、これ食べようと、ノートに作り方をメモしたり、食べ歩き番組では、行けそうなところは電話番号を書き留めたりしていた。

 入院生活も長くなると、病院メニューも繰り返されていることが分かり、「あーまたか」と気持ちが沈んでしまう。

 「お代わりしたい」と思うくらい、楽しみだったのはカレーライスだった。犬のように皿までなめ回したい、いや犬になっていた。今までそんなに好物ではなかったのに。

 グレープフルーツジュースも、売店で買っては、毎日飲んでいた。元気な時は「よくあんな苦いものを」と敬遠していたのが、今や離せない一品になっている。なぜだろう? 味覚が変わったのだ。私の体は、香辛料のきいたものなど、はっきりとした味を好んで選択している。

 早速、病室を訪れた栄養士さんに「がん患者にとって、食事は免疫力を上げる重要な役割を果たしていると思う」と提案してみた。「化学療法中のがん患者の嗜(し)好調査をしたら」「果物だけの別メニューはできないの」…。

 「おっしゃることはよく分かるんですけど、大きな組織だと、何か変えようとすると一年仕事なんですよ。すぐご希望には沿えないかもしれませんが、頑張ります」

 食べ物への思いはみんな同じはず。タイムリーにやることが大事なのだが…。

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